第14話 なまはげ vs SDGs③
ぼくらの地球のために。みんなの未来のために。
SDGsの活動を始めてからというもの、ぼくの生活は、今までの価値観は一変した。
「金に困ったら?」
「横領する!」
「違う。困ってる人がいたら助け合う、だ。金はあるところにはあるからな。それをほんの少し経費に上乗せ、あー、
「うん! 分かった!」
「じゃ、金に困ってる人がいたら?」
「高金利ローンを組ませる!」
「違う! 困ってる人がいたら助け合う、だ。一度に大金は払えなくてもな、少額なら何とかなると思わせ、あー、
「分かった! 『SDGs』だね」
家に帰ると、早速『SDGs』のニュースをやっていてぼくは嬉しくなった。なんだかんだ言って大先生も大企業も、地球のことを考えてくれているんだ。ぼくも負けていられない。もっともっと地球のためになることがしたくてたまらなくなった。
「ねぇねぇ、他にはどんなSDGsがあるの?」
「慌てるな。今日は漫画を無料で全巻読めるサイトを紹介してやろう」
「えぇっ!? 無料で!?」
なまはげのおじ……じゃなかった、お兄さんは煙草を咥えたままニヤニヤと笑った。
「嗚呼。漫画だけじゃない。海の向こうには映画も音楽も、何だってあるぞ。今あるものを有効活用する。これも立派なSDGsだ」
「すごいや、SDGsって!」
なんてことだ。ただ漫画を読むだけでも地球のためになってしまうのか。それにしても、こんなにも毎日世のため人のためになるだなんて、自分で自分が恐ろしくなってしまう。そのうちぼくは、今世紀最大の善人として表彰されるかもしれない。
「善い奴ほど善い鴨になるんだなァ」
「何か言った?」
「いいや、何でも。それより坊主、分かってるな。今日は『老人ホーム』だぞ」
「うん、分かってる。大丈夫だよ、任せて!」
ぼくは胸を張った。あれ以来、ぼくはなまはげのお兄さんと一緒に『お手伝い』に行っているのだった。困っている人がいたら助け合う、それがSDGsなのだ。ぼくらは人手の足りない介護施設や老人ホームに行き、掃除や洗濯、その他諸々のお手伝いをしていた。ぼくの他にも……キーホルダーやぬいぐるみを買い込み……お小遣いに困った子供たちが大量に駆り出された。
仕事じゃないから、最初はお金はいただくつもりじゃなかった。だけど、おじいちゃんおばあちゃんはぼくらとおしゃべりするのが楽しいらしく、毎回盛んに嬉しがってくれ、たまーにお小遣いもくれた。そうするとぼくらは困ってしまう。これはあくまで『無償の奉仕』であって、見返りを求めてはいないのだ。
それで、もらったお小遣いは、全額なまはげのお兄さんが回収することになった。そこからぼくらに毎日100円、そして残りは全部『地球の裏側の恵まれない子供達のためにSDGsする』のだった。
「ありがとう生励家さん。これ、今月分ね。子供たちにちゃんと分けてあげてね」
「ウィーッス!」
『無償の奉仕』が終わり、ぼくが中々戻ってこないお兄さんを呼びに行くと、彼は施設の片隅で、管理人にペコペコと頭を下げていた。
「その封筒、なぁに?」
「ん? これか? これはな、『肩たたき券』だ」
ぼくが近づいて行くと、お兄さんはサッと封筒を内ポケットにしまいながら嗤った。
「この券を見せると、好きな時に肩たたきしてもらえるんだ。坊主もいるか?」
「ううん、いらない」
ぼくも笑った。子供じゃあるまいし。『肩たたき券』なんかもらってはしゃいでいるお兄さんが、妙に面白かった。
送り迎えの車の中で、お兄さんはぼくらにたくさん地球に善いことを教えてくれた。たとえば……
「よぉし、お前ら! 明日は無料で電車に乗れる方法を教えてやるぞ!」
「えぇっ!? 無料で!?」
「そうだ。ま……最初は『キセル』から始めようか」
「きせる?」
「カッコいいだろ?」
「すごい! 必殺技みたい!」
お兄さんがニヤッと嗤う。ぼくらは目を輝かせた。
「それもSDGsなの?」
「もちろんだ。電車ってのはなァ、電気代やら燃料費やら、毎回莫大なエネルギーを消費してんだ。それなのに、お客さんが乗らなかったらどうなる? 客が0でも100でも、毎日毎時間、行ったり来たりしてるんだぞ。それってエネルギーの無駄じゃないか?」
「うーん……そう言われるとそんな気がしてきた……」
「だからキセルの出番なんだ。いいか、これからの時代、資源は一切無駄にできない! 『貴重な資源を大切に有効活用する』……どうだ?」
「SDGsだッ! それってとってもSDGsだよ!」
「ばんざい! SDGsばんざい!」
お兄さんの運転するハイエースの中で、ぼくらは万歳三唱を繰り返した。ぼくは目尻が下がるのを抑えられなかった。無償の奉仕をして、一日100円ももらえる。地球に善いことって、SDGsって、なんて気持ちのいいことなんだろう。善いことをするって、胸のすく思いだ。
だけど……だけど残念ながら、
残念ながらSDGsの中身は、まだまだ世の中に浸透しているとは言い難いのだ。
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