ROUND 3

第12話 なまはげ vs SDGs①

 うららかな昼下がり。


 平日の昼間、悠介たちは学校に行っていて、からかって遊ぶこともできない。しょうがないので、コックリさんが神社の周りを散歩していると、向こうから黒いスーツ姿の大男がぶらりと姿を現した。


「おっ。ハゲのオッサン」

「待て待て待て。開口一番何ツーご挨拶だお前は。時代の反逆児か。言い直せ」

「ナマハゲのオッサン」

「オッサンは余計だ。俺はまだ25だぞ」

「十分オッサンじゃないか」


 その後しばらく、25歳はオッサンか否かで激しい議論が続いた。やってきたのはコックリさんの古い知り合いの、ナマハゲのオッサンだった。オッサンは黒いシルクハットの帽子を取り、これみよがしにアフロヘアーを風になびかせた。


「久しぶりじゃのう。何しに来たんじゃ? まーた包丁を持って暴れに来たのか?」

「やめろ。人を指差して現代社会を映す歪んだ鏡みたいに言うな。別に……ただ仕事のついでにフラッと寄っただけだよ」


 オッサンは銃刀法違反・児童脅迫や誘拐などの罪に問われている住所不定無職の容疑者……もとい、ナマハゲであった。だがナマハゲのシーズンは限られているので、暖かい間は怪しげなセールスマンをやって、ナントカ生計を立てているようだ。


「まーた役に立たない商品ガラクタを高額で売りつけているのか!」

「うるせぇ。騙される人間ヤツが間抜けなんだよ。ケケケ。最近は保険屋とグルになってな……おっと、これ以上は企業秘密だ」

「全く! お主が一番のじゃ」

「ケッ。イマドキ悪い子なんて滅多にいねえよ。どいつもこいつも真面目で礼儀正しくて……全く、薄気味悪いくらいだぜ。商売上がったりだよ、こっちは」


 オッサンは胸ポケットから折れた煙草を取り出し、だけど結局火が点かなかったので、舌打ちして地面に投げ捨てた。


「コラ! ワシの神社の前でポイ捨てするな!」

「何だと? お前だって餓鬼ん頃は、散々人様に迷惑かけて…….ゴミだってそこらじゅうに捨ててただろうが! よくも自分のことは棚に上げて……」

「それはそれ! これはこれじゃ! お前は今いくつなんじゃ」

「チッ……どいつもこいつも日に日に物分かりが良くなりやがって。だから現世はヤなんだ」

「お主こそ時代に逆行するような真似はよせ。知らんのか? 今は『地球環境を守ろう』という……世にも素晴らしいSD……SDG……」

「SD……何だそりゃ?」

「うーむ。忘れた」


 途端にオッサンは腹を抱えて笑い始めた。コックリさんは顔を真っ赤にして手足をジタバタさせた。


「し、仕方ないじゃろう! 確か20個くらい……たくさん目標があって、覚えきれないのじゃ」

「何だよそりゃ。誰も覚えられもしねえ目標掲げたって、意味ねえだろ。大体毎年どっかでドンパチ戦争やっといて、何が『地球を守ろう』だよ。笑わせんな。せめて戦争を終わらせてから言ってくれ」

「うぅ……ワシに言われても困る」

「だがしかし……それはそれで『面白い』な」


 オッサンがアフロヘアーを掻き上げ、ニヤリと嗤った。


「うむ。お主、また何か良からぬことを思いついたな?」

「嗚呼。そのSD何とかってのは、結局みんなうろ覚えなんだろ? ケケッ! だったらよぉ、こっちが適当にでまかせ吹き込んでも、誰にも気づかれねーんじゃねえか?」

「一体何を……?」

「まぁ見てな。高慢ちきの知ったかぶりに大恥かかせてやるぜ。ウケケケケ!」


 ナマハゲのオッサンは高笑いを決め込むと、それから嬉々として駆け出して行った。奇しくもその方角は、悠介たちの通う小学校の方だった。


「うーむ。大丈夫かのう……」


 コックリさんは心配になったが、神社に野良猫が遊びに来たので、そのうち猫の写真を撮るのに夢中になってしまった。にゃんということだ!

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