雲間に飴

あんちゅー

真っ青に晴れなくてもいい

ちょっとした失恋をした。


でも、最初から向こうはそうんなつもりではないのが分かっていた。


分かっていながら恋をして、告白するでもなく振られてしまった。


いつもそうなのだけれど、やはりうまくいかない。


振ったことにも気が付いていない彼女。


少し押し黙ったこちらをそっと覗き込んでくる。


僕は顔の前に見えないカーテンを降ろして、気丈な振りをした。


帰り道はどうしようもない、空元気と虚しさが溢れた。


抑えきれない感情と、もしかすればあったかもしれないような未来を想像し


それらが頭の中で掻き消えていく。


楽しかった思い出と可愛く笑う彼女の思い出と


それらをそっと普段は見えない所にしまいこんで、この恋は終わりにしよう。


家に帰り布団に潜ると、今日は眠たくなるまで起きていることにした。


一晩中本を読み、別の人の人生を切り取った物語をなぞる。


自分の気持ちから目を逸らすため。


なのに、スマホの通知画面をしきりに開いてしまう。


何に期待をしているのだろう。


彼女はとっくに眠っているはずなのに。


夜は更けて、明日も何事も無いように朝が来るのだろう。


明日くらい太陽も休めばいいのに。


何だか明日が無性に腹立たしい。



アラームが鳴っても寒くて起き上がれずにいた。


いつもは寝れば大抵の事は忘れられるのに、それはそうだよな。


毎朝のルーティンをなぞって、いつもの自分を作り上げる。


玄関扉を開けて、駅に向かう。


駅までの一本道。


冬の低く昇った朝日に向かって歩く道。


澄んだ空気を壊すくらい眩しい朝日が嫌いだった。


でも、今日の天気は曇りのち晴れ。


雲間から覗いた朝日が、その形が見えないくらい眩しいのに、不思議といつもより柔らかい。


そんな今日が綺麗だと思った。


そう思えるだけで十分だった。


眩しくて、目の中に跡が残るくらい、じっと雲間の朝日を見つめていた。


後で絶対後悔するのに、眩しくても目を逸らさずにいた。


次に会った時、気後れせずに話そう。


そう思った。


誰より君のことを考えた1人として、新しい友達の1人として、僕は声を掛けることが出来ると思う。



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雲間に飴 あんちゅー @hisack

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