#30 太陽を纏った朝顔の花 その⑤
歩き始めて18分が経った頃、紫月と少女は、少女の父親の実家がある辺りまで到着していた。
朝顔 紫月
『聞いていたよりも早かったね。』
そんな独り言を言いながら紫月が少女の方を眺めると、歩いている間に拾ったのか、少女は小さな松ぼっくりを手に握りしめていた。
霊体ではあるものの、幼い少女である事には変わり無く、落ちていた松ぼっくりに興味を持ち、拾って持って来てしまったようだ。
そんな少女を『可愛いな』と思いながら紫月が眺めていると、体が透けて向こう側が見えている女性が、少女の父親の実家のある方向から近寄って来ている姿が目に入った。
紫月が、その女性の存在に気が付いたと同時に、隣で手を繋いでいた少女の霊体が、握っていた手を離し、その女性の方へ向かって大きな声で『お母さーん!』と言い駆け出して行った。
坂の上に居た女性も遠目で分かる程の大粒の涙を流し、その少女の霊体の方へ駆け寄ると少女の体を優しく抱き寄せると共に、その女性と少女の霊体の体は少しずつ、キラキラとした砂が空に舞い上がる様に消えていったのであった。
紫月は少し悲しそうな表情で空を眺め、『お母さん、待っててくれたんだね。』と心の中の安堵の声を溢していた。
そんな中、紫月の頭に小さな松ぼっくりが当たり、地面へと落下した。
紫月は足元に落ちた松ぼっくりを拾うと、ほっこりとした気持ちになった。
少しの間しか少女とは関わる事が出来なかったものの、紛れも無く、その松ぼっくりは、女の子からの細やかな御礼だと紫月には分かったからだ。
紫月は『またね』と小さく囁くと、小さな松ぼっくりを左手で軽く握りしめ、その場を後にしたのであった。
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その頃、白華は商店街の入り口に立っていた。
白華は交番へ少女を送った後、交番を離れようとすると少女に悲しそうな声で引き止められ、結局、少女の母親が交番へ現れるまで一緒に付き添っていたのであった。
紫月に電話をする白華。
林藤 白華
『ごめんね! 今、商店街まで戻って来た!』
朝顔 紫月(電話)
『お疲れ様。
私も今、連絡しようと思ってたんだ。
泣いていた女の子、無事に空へと昇って行ったよ!』
林藤 白華
『そうか、良かった!お疲れ様!
任せっきりになっちゃって、ごめんね。』
朝顔 紫月(電話)
『大丈夫だよ!』
林藤 白華
『今どの辺り? どこへ行ったら良いかな?』
朝顔 紫月(電話)
『ここは、どこだろう?
何ていう所なのかな?』
林藤 白華
『何か目印になる建物とかある?』
朝顔 紫月(電話)
『コンビニと民家くらいしか見えない。』
林藤 白華
『コンビニと民家かぁ。
中々、難しいね(苦笑)』
朝顔 紫月(電話)
『ここからリンドウちゃんの所まで、少し時間が掛かると思うから、お店でヨツバちゃんと連絡しててもらって大丈夫だよ。』
林藤 白華
『迎えに行かなくて大丈夫?』
朝顔 紫月(電話)
『うん。』
林藤 白華
『じゃあ、前にユリちゃんと入った、商店街の入り口にある飲食店でヨツバちゃんに連絡してみるね。』
朝顔 紫月(電話)
『うん。』
林藤 白華
『着いたらユリちゃんも連れて中に入って来て!
私が出すから、何か飲んで行こう。』
朝顔 紫月(電話)
『うん、分かった。有難う!』
白華は紫月との通話を切ると、待ち合わせ場所に指定した店の中へと入って行った。
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白華との通話を終えた紫月が、スマホを閉じてコンビニの前を通り過ぎようとしていると、スマホのメッセンジャーアプリへ黄泉からのメッセージが入って来た。
アプリを開くと、黄泉から『少し飲み物でも飲んで休憩しなさい』という言葉と「ハートを抱き抱えた猫」のスタンプが送信されていた。
そのメッセージを眺めて微笑み振り返る紫月。
朝顔 紫月
『黄泉ちゃんも、一緒に入る?』
慌てて民家と民家の間へ体を隠す黄泉。
朝顔 紫月
『あれ? 帰ったのかな?』
幸い黄泉の姿は紫月に、気が付かれていない様だ。
紫月は、コンビニの方へ目をやると『確かに少し お腹も空いたし、リンドウちゃんも お店の中に居るし、少しくらい公園へ寄っても大丈夫だよね?』と小さく囁き、コンビニの中へと入って行った。
そして紫月は迷う事無く、小さい紙パックのぶどうジュースと、小さいクロワッサンが5つ入った袋を手に取りレジへと向かった。
5分もしない内にコンビニから出て来る紫月。
そんな紫月を遠くから眺める黄泉。
百合 黄泉
『相変わらず、早いわね。
絶対に、またクロワッサンと小さい紙パックのジュースでしょ。』
そう呟きながら、再び黄泉が紫月の後を付けていると、紫月は、少し歩いた所にある小さな公園の中へと入って行った。
朝顔 紫月
『こんな所に公園があったんだ!
来る時は気が付かなかった。』
紫月は、ベンチに座ると刀を自分の右側へ そっと置き、袋の中から小さな紙パックのぶどうジュースを取り出しストローを刺した後、小さなクロワッサンを一つ手に取った。
紫月がクロワッサンを食べようとしていると、茂みから黄泉の髪の毛が見えている事に気が付いた。
朝顔 紫月
『あ!黄泉ちゃん居たんだ!
黄泉ちゃんも食べる?』
紫月はベンチに座ったまま、笑顔で黄泉の居る方へとクロワッサンを差し出した。
顔を赤くして地面に寝そべる形で身を潜めた黄泉は、猫の鳴き真似をし始めた。
百合 黄泉
『にゃんにゃん! ごろにゃ〜ん!』
その上手な猫の鳴き真似に驚く紫月。
その鳴き真似は、茂みから覗いていたのが、黄泉の髪の毛だったのか、猫だったのかすら半信半疑になる程のものだった。
朝顔 紫月
『あれ? 黄泉ちゃん居たよね?
猫ちゃん? 猫ちゃんだったの?
猫ちゃんもクロワッサン食べる?』
その言葉を聞き、『野良猫に餌を与えちゃ駄目でしょ!』と思いながら、紫月の事が気になり茂みの隙間から紫月の方へ目をやる黄泉。
するとそこにはベンチに座る紫月の姿と、公園の入り口から紫月の事を眺める細身の男性の姿があったのでした。
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