#29 太陽を纏った朝顔の花 その④

白華は迷子を連れて交番へと向かい、紫月はメールに記載された場所へと向かっていた。


声が聞こえると言われている場所は、商店街から信号を1つ渡った所にあり、目的地から商店街も見えていた。


朝顔 紫月

『ここなら、リンドウちゃんが帰って来ても見えるね。』


そう呟くと紫月は、黄泉の方へ顔をやった。

黄泉は販売機の向こう側に隠れており、相変わらず紫月に気が付かれている事に気が付いていない様だった。


そんな中、紫月の耳に小さな子の泣き声が聞こえて来た。


驚いた紫月は、声が聞こえて来る方向を眺めた後、再び黄泉の居る方へと振り返った。

黄泉も声の聞こえて来る方向に顔をやっており、黄泉にも声が聞こえている様であった。


紫月はスマホを手に、白華に連絡を入れながら声の聞こえて来る方向へと、そっと歩き始めた。


朝顔 紫月

『リンドウちゃん! 声、聞こえたよ!』


林藤 白華(電話)

『えっ! ほんと!』


そう話しながら、紫月はビルの前に立ち止まった。

紫月がビルとビルの間に目をやると、そこには小さな女の子の霊体がしゃがみ込んで泣きじゃくっていた。


朝顔 紫月

『ビルとビルの間に、小さな女の子が居る!』


林藤 白華(電話)

『小さい子なら大丈夫だとは思うけど、慎重にね!』


朝顔 紫月

『うん、分かった!』


林藤 白華(電話)

『私も、この子を交番へ送ったら、直ぐにそっちへ行くから!』


朝顔 紫月

『うん! 分かった!』


そう言うと紫月は電話を切り、女の子の元へと近寄った。

紫月がしゃがみ込み女の子に話し掛けると、女の子は大粒の涙を流したまま紫月の方へと振り向き悲しげな表情を浮かべ、紫月の顔を眺めたまま再び、しくしくと泣き始めた。


朝顔 紫月

『ここで何してるの? 何かあったの?』


女の子の霊体

『お母さん・・・ぐすん。

居なく・・・居なくなっちゃったの。』


朝顔 紫月

『お母さん?』


女の子の霊体

『お家に帰っても、お母さん居ないの。』


そう話すと、女の子は先程とは比べ物にならないくらいの大きな声を張り上げて泣き始めた。

紫月が辺りを見渡すと、周囲の人達には、声は聞こえているものの、女の子の姿は見えていない様だった。


女の子の霊体は、霊体になってから然程時間が経っておらず、自身の声を霊障として人に伝えようとしている訳では無く、「母親に逢いたい」という強い気持ちが、偶然にも霊障という形に変わっていたのである。


朝顔 紫月

『そう言えば、ここって・・・。』


紫月は女の子の言葉を聞き、半年程前に、この辺りで事故が起きていた事を思い出した。


紫月は女の子に『ちょっと待っててね』と言うと立ち上がり、女の子から少し離れた所へ向かい、スマホを手にすると緑莉に電話をかけた。


四葉 緑莉(電話)

『もしもし・・・ぐふっ・・・。』

 

朝顔 紫月

『もしもし! ヨツバちゃん、大丈夫?』


四葉 緑莉(電話)

『大丈夫だよ! 御免ね!

それより何かあったの? 大丈夫?』


朝顔 紫月

『私は大丈夫だよ。

ただ、1つ調べてほしい事があって・・・。』


四葉 緑莉(電話)

『ちょっと待ってね!

今、パソコンの方に向かってるから!』


バタバタと音がした後、再び緑莉が話し始めた。


四葉 緑莉(電話)

『お待たせ! それで!何を調べたら良い?』


朝顔 紫月

『商店街の近くで、小さな女の子の霊体と出逢ったんだけど、「家にもお母さんがいない」って、今もずっと泣いているんだ・・・。』


女の子の泣いている方向を眺めながら話す、紫月。


四葉 緑莉(電話)

『さっきから電話越しに聞こえる泣き声が、例の小さな子の泣き声だったんだね。

ずっと、お母さんが見つからなくて泣いていたなんて・・・可哀想に。』


朝顔 紫月

『それで思い出したんだけど、半年くらい前に、この辺りでお母さんと女の子が亡くなった事故が、あったよね?』


四葉 緑莉(電話)

『あっ! 玉突き事故の!

確かトラックの運転手が飲酒運転していたんだっけ?

ちょっと調べてみるから、待っててね。』


緑莉がパソコンに向かい、当時の情報を検索すると、その事故で運転手を含めた4人の死亡が確認されており、そこには確かに少女と、その少女の母親が事故によって命を落としていた。


四葉 緑莉(電話)

『見つかったよ!

確かにその事故でお母さんと女の子が命を落としているみたい。

事故後のお父さんが記者に向かって話している記事も出て来たんだけど、奥さんや娘さんと一緒に暮らしていた家に一人で住むのも辛いからって、今はそのマンションも手放して実家の方へ帰って、実家の近くにお墓も建てているみたい。』

 

朝顔 紫月

『だから家には誰も居なかったんだ・・・。

お母さんは、ちゃんとお父さんに憑いて行けたのかな?』


四葉 緑莉(電話)

『どうだろうね?

お母さんは、お母さんで彷徨っていなかったらいいけど・・・。』


朝顔 紫月

『お墓の場所って、どこだか分かる?』


四葉 緑莉(電話)

『如月警部に頼めば、もしかしたら見つかるかも!』


朝顔 紫月

『そうなんだ。じゃあ、警察署に電話してみるね。』


四葉 緑莉(電話)

『大丈夫だよ!

私が聞いて、直ぐに折り返すようにするから!』


朝顔 紫月

『ほんとに! 有難う!』


四葉 緑莉(電話)

『じゃあ、一回、電話切るね!』


そう告げると緑莉は電話を切り、5分後に折り返しの電話が掛かって来た。


如月警部から教えてもらった内容によると、今現在、紫月の居る場所から徒歩で20分程、歩いた所に少女の父親の実家と少女のお墓があるとの事であった。


朝顔 紫月

『有難う! それじゃあ、あの子を連れて、そこに行ってみるよ。』


四葉 緑莉(電話)

『気を付けてね!』


朝顔 紫月

『うん。』


そう告げると紫月は電話を切り、白華に緑莉とのやり取りを電話で伝えた後、紫月は少女を連れて2人で目的地へと向かい始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る