第180話明治初期の偉人の写真てビビるくらい格好良いよね

「よっ! 廉太郎、久しぶり! 元気だった?」


 俺達が座っているベンチの隣、誰も座っていないのを良い事に、ベンチのど真ん中にどっかり座っていたのは、多分アカツキさんであろう中年の男性だった。


「………………えっと、アカツキさん、で合ってますか?」


「おうよ! ハハッ、いつもと違うから分からなかったか!」


 ベンチに悠々と座る中年男性は、俺が今まで見てきた浮浪者のナリをしたアカツキさんとは別人だった。髪と髭を整え、洒落たブラウンのスーツを着ている。

 あんまりこういう人見たことないけど、これがダンディってやつか? 歴史上の偉人みたいな風格まである。この姿なら大学教授って肩書もしっくりくるわ。あと、ちゃんとしたら人って格好良くなるんだな。


「一応、結婚式だからな! おかげで門前払いされずに中に入る事が出来たわ」


「いつからいたんですか?」


「んー? お前さんがそこの兄ちゃんに話しかけるちょっと前かなー? 兄ちゃんがここが麗香達の結婚式場だって教えてくれたんだよ」


「滝口さん?! 変な人が来たら報告って言ったじゃないですか!」


「お前が言ってたのは浮浪者みたいな怪しい奴だろ?! このおっさんは怪しい奴じゃないじゃん!」


 くそ……考えてみればそうだよな、結婚式場に浮浪者の恰好で来れば追い返される事は必至……。招待客を装って入れば何も怪しまれる事はない。俺とした事が迂闊だった……!


「そんな怖い顔せんでも、式には参列しないから安心しろ。いくら俺だって、元嫁の結婚式に招待も受けずにズカズカ上がり込む気はねえよ。あいりと話をしに来たんだ。ロビーで待たせてもらうぜ」


 余裕そうな笑みを浮かべてベンチの背もたれにだらんと身体を預けるアカツキさん。この感じを見るに、無理矢理乙成を連れ去りに来た感じではない? いや、まだ安心出来ないぞ。何か隠し持ってたりするかもしれないしな!


「しっかし……式が終わるまで待ってるのも退屈だな……どれ、麗香に祝儀の一つでもくれてやるか」


「え、まさかアカツキさん麗香さんの控室に?」


 まずい。控室には乙成がいる……! なんとしても止めなくては!


「え? そうだけど」


「ご祝儀なら後で渡したっていいじゃないですか! ま、まだ準備でバタバタしてるだろうし? ね? アカツキさんなんか飲みます? あれだったらみかんジュース買って来ますよ!」


 とにかくなんとかして乙成から遠ざけないと。それで式が終わったと同時に裏口から乙成を逃がして……


「んん〜? 廉太郎くん、なぁにを焦ってるのかなぁ? 何、もしかしてに隠し事とかしちゃってるわけ?」


「え?! いや、そんな事……」


「先生。いらしてたんですか」


 俺がアカツキさんに詰め寄られて困惑していると、なんと背後から美作さんが現れた。その手に持っているお盆と……そして湯呑み……まさかあれは殺鼠剤入りのお茶?!


「おおー美作! 結婚おめでとさん。なんだその湯呑み。茶か?」


 湯呑みを見てすぐに反応するアカツキさん。やはりお茶には目がないという事だろうか。


「ええ。お茶ですよ。良かったら如何ですか? 湯呑みに入っていますが中身はキンキンに冷えてます。今日も暑いですからね」


「おお、これは助かる。丁度喉が渇いていたんだ。ありがたく頂くとするか」


 かかったとばかりに口元に薄っすら笑みを浮かべる美作さんには目もくれず、躊躇なく湯呑みを手にしたアカツキさん。


「あ、そのお茶……」


 慌てて止めかけた所で、湯呑みを口へと運ぶアカツキさんの手がピタリと止まった。


「ほう……殺鼠剤入りの茶なんか渡して、俺を足止めさせようとは。美作、お前も随分やるようになったじゃねえか」


 コトリと湯呑みをベンチ横のテーブルに置くアカツキさん。俺達を見つめるその目には、全てお見通しと言わんばかりの鋭さが光っていた。


 

 

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