第181話命の取り合いでも始める気?
「……やはりバレましたか。流石は先生です」
「ハッ、俺をなめるなよ? 大方、麗香が作ったと勘違いさせて飲ませようとでも考えたんだろ。考えが甘いねえ〜〜光太郎くん。まぁ、仮に気が付かず飲んだとしても? 腹の強靭さでは誰にも負ける気がしないんでね。これしきの毒でどうにかなっちまう程軟じゃねえのよ」
な、なんて事だ……。多分普通の人が飲んだら間違いなく病院送り、最悪の場合は死に値する程のお茶だというのに、これ飲んでもなんにも起きないの? 化け物じゃん。
「残念です。今日であなたの影ごと消しされるかと思ったのに」
「元教え子に、ここまで嫌われてたなんてなぁ……まぁでも、お前のおかげでなんか
「何を訳の分からない事を言っているんですか? あなたから来ないのなら、こちらから行きますよ?」
「お? やるか? いいのか美作。そのスーツ、使いもんにならなくしちまうぞ?」
「望むところです。そっちこそ、本物の浮浪者にしてやりますよ」
結婚式場のロビーで、今にも掴みかかりそうな勢いで火花を散らす美作さんとアカツキさん。いい大人が何やってんの?
「なぁなぁ前田、これって何が始まんの?」
状況がいまいち掴めない滝口さんが俺に耳打ちしてくる。
「なんかよく分かんないですけど、多分喧嘩になるのではと……」
「喧嘩?! マジかよ?! なぁなぁ前田! お前はどっちが勝つと思う? 賭けようぜ!」
「今そんな事してる場合じゃないでしょ?! 二人を止めないと式場から追い出されますよ!」
ブーブー言っている滝口さんはほっといて、ここで喧嘩なんか始まっちゃったらマジで式場に迷惑がかかるし、ちゃんと恥ずかしい。だって、俺達大人だぜ? しかもあの人達何で争ってるのか分かんないし……。
「どうしたんですか……?」
「乙成!」
俺がどうしようかとあたふたしていた所に、麗香さんの控室から出てきた乙成達と遭遇した。
「お父さん? どうしてここに……?」
あ、やっぱり親だからすぐに分かるもんなんだな。いや、こっちのアカツキさんの方が乙成的には馴染みがあるのか? あの浮浪者の恰好よりも。
「乙成大変なんだ! 美作さんとアカツキさんが喧嘩し始めそうで……」
「ええ?! なんでそんな事に?!」
「なんか分かんないけど、積年の恨み? と、とにかく止めなくちゃいけなくて……!」
俺は、出来る限り端的に乙成に事情を説明した。こうしている間も、あの二人は相変わらず睨み合っている。美作さんが持っているあれは……ナイフ?! なんであんなもん持ってるの?! アカツキさんもなんか持ってる……! ん? なにあれ? 葉っぱ?
「美作ァ……お前も俺が作ったトリカブトの餌食になりたいの? 俺のは強力だぜえ……?」
は?! トリカブト?!
「そんな雑草で何が出来るって言うんですか。そんなもの持ち出して、神聖な結婚式場の床が汚れます。ちなみに、僕はナイフ投げにはちょっと自信があるんです。滾りますねぇ、あなたを串刺しに出来るなんて」
うっわ、本当に根っこのまんまトリカブト持ってきてんじゃん……。何してんの? あと、美作さんが見たことないくらい恍惚とした顔をしている。あれは悪者の顔。絵面が犯罪者よ。
騒ぎを聞きつけてか、俺達の周りに少しずつ人だかりが出来てきた。本当にまずい。このままではマジで追い返されてしまうかもしれない。
「ど、どうしよう……」
「……前田さん。私に任せてください」
「乙成?」
何か策があるのか、乙成は自信ありげに胸をはって前に進み出た。なんだ、何が始まるんだ……?
「光太郎さん」
美作さんとアカツキさんの間に割って入る様に立つ乙成。アカツキさんを背にして、真っ直ぐと美作さんを見ている。
「あいり、そこをどいて下さい。今から
もう殺る気じゃん。いつだったか、アカツキさんは乙成の父親だから流石に殺しは……みたいな事言ってなかった? 完全に色々と見失ってんじゃん。あんな奴野放ししてちゃダメだろ。
「光太郎さん、今日はお母さんとの結婚式だね? 私、この日をとっても楽しみにしてたんだよ?」
乙成は美作さんを止める気か……? でもそんな同情を誘う様な言葉だけで、美作さんが正気に戻るとは思えないんだけど……
「ええ。それは僕もとても楽しみにしていましたよ。ですがその前に、汚い鼠を駆除しないといけないんです」
「えっと、ね……光太郎さん。あのね、これからは呼び方も変えないとだよね。お、
ロビーに静寂が響き渡る。さっきまでナイフの刃先をもて遊びながら不敵な笑みを浮かべていた美作さんはというと、乙成からのまさかの「お父さん」発言に思考が停止している様だ。
カシャーーーーン……
「今だ!」
美作さんが手に持っていたナイフを落としたと同時に、サッと駆け寄ってそのナイフを回収した。ふぃー。これで血を見ずに済みそうだ。
「前田さん! やりましたっ」
そう言って俺の方を向いて笑う乙成は、誇らしげに笑っていた。
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