第179話滝口さんの疑問

 キラキラ女子会の雰囲気に居心地の悪さを感じた俺は、滝口さんの様子を見てくるといって控室から出た。あのまま話が進んだら、夜のお話にも発展しかねない雰囲気だったからな。童貞にはその話を楽しく聞ける余裕はない。


「よお前田ァ!」


「滝口さん! どうです? 変な人見てないですか?」


 式場のロビーにて。滝口さんはベンチにだらしなく座ってジュースを飲んでいる。あれは……つぶつぶみかんジュースだ! 夏に飲みたくなるよね~。みつけたらつい買ってしまう。俺はみかんジュースを美味そうに飲む滝口さんの隣に座った。


「なぁんも! お前が言ってた浮浪者も見てないよ」


「そうですか、でも予定だとここに必ず現れる筈なんで、式が始まるまでは頼みますよ?」


「わーってるてぇ! オレを誰だと思ってんの! そういえば、朝霧さん達に会って来た?」


 バシバシと背中を勢いよく叩かれてむせる俺に、滝口さんはひと口ジュースを飲みながらそう聞いてきた。


「へ? 会って来たも何も、さっきまで控室で一緒でしたよ」


「そっか、あの人……朝霧さん」


「いつも通り酒飲んでました」


 食い気味で飲酒の報告をする俺。朝霧さんがする事なんて、酒飲んでるか誰かに絡んでるかくらいしかないからな。


「やっぱりなぁー! 禁酒の誓いを立ててもすぐこれだわ! 前田、今度朝霧さんが酒辞めるって言い出したら賭けようぜ? 一週間辞められるかどうか!」


 何故か一瞬でも、この人が彼女である朝霧さんの身体を気遣ったのでは? と思った俺が馬鹿だった。そうだったわ、こいつはこんな奴だったわ。


「それなら俺だって一週間も保たない方に賭けたいですよ」


「言うな〜! お前も朝霧さんの事分かってきたじゃん! ウヒャヒャ!」


 奇っ怪な笑い声をあげて嬉しそうにする滝口さん。前から思ってたけど、その笑い方変だぞ。


「それにしても、まさか乙成がゾンビだったなんて驚きだな! なんか顔色悪いな〜とは思ってたけど!」


「灰色なのに疑問に思わない方がおかしいっすよ……」


 滝口さんは感慨深そうな表情を浮かべて一人頷く。そんなしみじみとしなくても大体分かるもんだと思うけどね! この世界の人達って本当に鈍感なんだから!


「なぁ、前田。気になってた事聞いていいか?」


「なんですか?」


 急に真面目な顔になる滝口さん。普段ならここで、碌でもない質問をして俺をドン引きさせる所だが、今日のそれは今までと違う気がする……何故だか分からないけど、そんな予感がする。


「この三週間くらいずっと気になってたんだ。乙成がゾンビだって知った時から……なぁ前田、ゾンビとヤるのって……」


「はいそこまで!」


「なぁんだよお!!! ちょっと気になったから聞いただけじゃん!! 別に減るもんじゃないし隠す事ないじゃんかあああ!」


「ちょっとこっちが聞く姿勢に入ったらすぐこれだよ!!! やっぱり碌な事言わない! たとえそんな事してたって、滝口さんになんか言いませんよ!!」


 そうだ、滝口さんはこんな奴だったわ。少しでも真面目な話をすると思った俺が馬鹿だった。


「え? 何? そんな事してたらって。まさかお前ら、まだわけ?」


「は?! ななな何、なんですか! そんな事って! そんな事って言いました?!」


「マジかよ……お前ら付き合って何ヶ月よ? 今時、中学生でももっと早いぞ?」


 ププッと吹き出しながら、ニヤニヤとこちらを見てくる滝口さん。おい、馬鹿にするのも大概にしろよ?


「お、俺達は慎重なんです!」


「慎重なだけかなぁ〜? お前さん、そんな悠長な事ばっかり言ってるから、ゾンビ化も治せなかったんじゃあねぇの?」


「余計なお世話ですよ滝口さん……って、あれ? なんか滝口さんの声と違う……?」


「よっ! 廉太郎、久しぶりだな!」


「アカツキさん?!」



 そこには、隣のベンチに悠々と座って寛ぐアカツキさんの姿かあった。


 


 

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