第171話犯罪者

 部屋にズカズカと乗り込むなり、無言でアカツキさんの頭を鷲掴みにする美作さん。


「ちょちょちょ、何やってんですか美作さん?! いなりそんな事しちゃダメですよ!」


 俺が止めても一向に手をゆるめない美作さん。いくらアカツキさんが無礼極まりない物乞い老人だとしても、これはやり過ぎだろっ! やっぱり美作さんはヤバい奴だ! お年寄りには親切にしなさいって習わなかったのか? この犯罪者めっ!


「何やってるんですか


 ん? 先生? アカツキさんが?


「いてててて……相変わらず攻撃的だなぁ


 こ、光ちゃんって……


「その呼び方で呼ばないでください。本気で頭かち割りますよ」


「あの、どういう事なんです???」


 状況が読めずに混乱する俺。俺の言葉に我にかえった美作さんが、アカツキさんの頭を掴んでいた手を離す。


「ふぃ〜〜いってぇ、いってぇ。頭取れるかと思ったわ」


 美作さんから解放されて、九死に一生を得た様子のアカツキさん。話し方までなんかラフ? な感じになっちゃって……美作さんはやっぱり最低だ。


「この男は乙成暁。あいりの実の父親であり、麗香さんの夫です」


「は?!?! このおじいさんが?!」


「失敬な! 俺はまだ五十代だぞ! 爺さんなんて呼ばれるのは早いわ!」


 嘘……だろ? いや、でも確かに日々マッサージを要求された時に感じた背中の肉付きやらは、老人というにはしっかりとしていた……。それでもそんなに若かったとは……。え、こんなヒゲもじゃで浮浪者みたいな服着ている奴が乙成のお父さん……?


「そんな薄汚い格好をして、上手く溶け込めてたみたいですけど、僕の目は誤魔化せませんよ。一体今まで何処に行ってたんです?」


「いやぁ! これヒゲはハイチで出会った新しい嫁さん(ハイチ人)の趣味でさぁ! ヒゲがあった方がワイルドだって! それにしても久しぶりだな美作! 十年ぶり? お前の事だから、てっきり何らかの犯罪を犯して服役でもしてるかと思ってたのになぁ! いやぁ、何事もなかったみたいで安心したわ! わはは!」


「……チッ」


 あ、今美作さん舌打ちしたな? アカツキさんの事嫌いなんだ。俺はまだ状況が飲み込めてなくてモヤモヤしてるんだけど。


「質問に答えてください。なんであなたが、ここ日本に帰って来ているのか」


 そうだ。確か前に乙成がお父さんの話もしてたな。突然トレジャーハンターになるって言って出て行ったとか……この感じを見るに、美作さんや麗香さんも、お父さんの所在は分かっていなかったんだな。


「まさかあいりや麗香さんをストーカーする為に……?!」


「違う違う! そんなんじゃねぇって! んまぁ、あながち間違えでもない……か。あいりに用があって帰って来たんだよ」


「乙成に?」


 アカツキさんはバツが悪そうに頭を搔く。その姿はホームレス、もしくはホーボーでしかないんだけど、本当にこの人が元大学教授であの麗香さんの夫だった人? まじで信じらんないんだけど。


「ああ、まぁ廉太郎も無関係ではないか。本当はサッと用事だけ済ませてハイチに戻るつもりだったんだが、美作に居場所がバレちまったんなら仕方ねぇな……」


 そう言って、布団の上で姿勢を正すアカツキさん。話し出す雰囲気を感じた俺と美作さんも彼の目の前に座って話を聞く体勢に入る。床に座るのに抵抗がありそうな様子だった美作さんも、いつの間にか俺の鞄を座布団がわりにして座っていた。なんでそんな事するの?


「さて……どっから話すかな……。とりあえず俺が帰って来た理由、それは……」


「それは?」



「あいりのゾンビ化を治す為だ」


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る