第170話彼氏かよ
「前田くん、助かりました。お陰でとてもいい意見が聞けました。これで式の最終調整もばっちりです」
「それなら良かったです。俺は疲れたけど……」
あれから散々結婚式の段取りについて美作さんからアドバイスを求められ丁寧に一個一個答えてやった俺。てか、式までそんな日がないのに、決まってない事多すぎじゃね? 早め早めに決めとけ。
そして、永遠とも思える長い時間美作さんと一緒にいた事ですっかり疲弊しきった俺は、まだお昼になったばかりだというのに早々に家路に着く事にした。
断わったのに俺を家まで送ると名乗り出る美作さん。最早彼氏である。まだあと少し、美作さんとの時間が続くのか……嫌だな……
ポコン♪
「ん? 誰からだろ……」
二人で喫茶店を出てすぐ。不意に俺のスマホがメッセージを受信した。
「誰からです?」
彼氏かよ……俺のスマホを覗き込んでくる美作さんをサッと躱し、スマホのメッセージを確認する。
「……アカツキさんだ」
"廉太郎、今日は暑いからざる蕎麦が食べたい"
一言だけ添えられた物乞いメッセージ。みんな驚いたと思うけど、あの人スマホ持ってるんだよ。謎のプレハブ小屋に住んでるし、一体どうやって生計を立てているのか謎だ。毎日ではないけどこうやってその日食べたい物を要求してくる。無視してもいいんだけど、俺のせいで野垂れ死にしたら目覚めが悪いし、現に返信しないとそうやって脅してくる。全くもって厄介な相手に目をつけられてしまった。
「はぁ……美作さん、俺行く所が出来たのでここで……」
「アカツキ……ふむ。前田くん、僕も一緒に行きます」
「なんで?!」
いや来んなよ! アカツキさんはアカツキさんでウザいけど、この変人と一緒にいるよりはマシだ!
「ちょっと気になる事があるので。それに、前田くんが知らない男と会うのが心配なので」
彼氏じゃん。この人いつから、俺にそんな興味持つようになったの? 知らない間にこの人の好感度上がっちゃったのかな? 言っとくけど、この人に好感度チェッカーは使わないぞ!! 使ったら何かが変わる気がする……いや……でもちょっと気になる……ええ……
スッ……
「前田くん、なんですかそれ」
「いや、ちょっと外の温度が気になったもので……」
い、一応……ね? これでどうなるとかないけど、ここにこんな
好感度チェッカーに目をやる。
…………
……………………
………………………………
へぇ、はぁ、ふぅ〜ん。なるほど、そうきたか……
初めて見たな、まぁ、あれだな。うん、これは見なかった方が良かったのかも。
「どうでした?」
「なんか今日凄い暑いっすねハハハ! じゃ、じゃあ行きますか! コンビニはこっちですハハハ!」
「?」
不思議そうな顔で俺の方を見る美作さんを後目に、スタスタと歩き出す俺。好感度チェッカーの結果は、俺の心の中だけに留めておく事にするよ……
コンビニでざる蕎麦と飲み物やらを調達し、向かったのはアカツキさんの家。プレハブ小屋の周りにはすっかり伸び切って俺の背丈くらいまである雑草が生い茂っている。パッと見、こんな所に人が住んでるの? って思う様な場所である。
「アカツキさ〜ん、買って来ました〜」
俺はプレハブ小屋の引き戸をガラッと開けた。扉からすぐに広がる居間兼寝室。相変わらずのぺったんこ布団の上に寝転がっているアカツキさんの後ろ姿が目に入った。
「おお〜廉太郎、ご苦労さん」
扉とは反対の方を向きながら、顔だけこちらを向いて返事をするアカツキさん。
「アカツキさん、ざる蕎麦普通のやつなかったんでとろろ付きのやつ買って来ました……」
俺がコンビニ袋を床に置いて、買って来たものを広げようとした時、それまで俺の背後で静かに立っていた美作さんが靴も脱がずにツカツカと部屋の中に入って来た。
「おい! 靴は脱げって……あ。やべ」
アカツキさんが勢いよく乗り込んで来た美作さんに注意をした所で、何かに気が付いたのか老人らしからぬ反応を示した。
ガッ……!
「……え?」
次の瞬間には、美作さんがアカツキさんの頭を思いっきり掴んでいた。
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