ゾンビ彼女

第169話夏に結婚式って何事?

 俺は前田廉太郎。25歳童貞だ。今時は珍しいもんでもないだろ? よくある事だそうだ。学生時代に特定の相手を見つける事が出来なかった者は、まぁまぁいい歳になるまで童貞で過ごす事を余儀なくされる、それが今の日本なのだそうだ。


 しかし俺にだって特定の相手はいる。まだを起こしていないだけだ。


 そんな事はこの際どうだっていいのだ。いずれ訪れる事。今はただ、人生初の彼女が出来たこの一瞬一瞬を大切にしたいだけなのだ。


 あ、ちなみにその彼女はゾンビで、今の俺は彼女のゾンビ化を解く為に奮闘中だ。なんでも、彼女の好感度をマックスにしないとゾンビ化が治らないらしい。

 え? 意味分からないって? ここまで見に来た人ならもう分かると思うけど、ゾンビになった事がある人なんて今までいないんだからなんでもありなんだよ!! ある意味未開の分野だから好き勝手出来る、乙成がこれからのゾンビのテンプレを作るのかもしれないだろ!


 まぁそんな訳で、俺は今、人生をかけて彼女の為に色々しようとしている所だ。具体的に何をしたら良いのかも分からないけれど、必ずや乙成を元の姿に戻して……


「前田くん、お花は白いのと黄色いの、どっちが良いですか?」


 ……………………


「あの、すみません美作さんこれって……」


「僕的には白い方が好みなんですけどね。でも麗香さんは陽だまりの様な雰囲気も持ち合わせている女性なので、彼女の雰囲気にあわせて黄色い花を飾るのもありなのかなって」


「聞いてます……?」


 今日は土曜日。そしてめっちゃ早朝。近所の喫茶店である。モーニングセットを注文して、俺の目の前にはトーストとゆで卵、そして美作さんである。


 なんでこんな事になったかと言うと、俺の家は奴に知れているので、なんの前触れもなく突如として訪ねて来たのだ。まだ寝ていたと言うのに叩き起こされて、近所の喫茶店に連行され、結婚式に使う花がどちらが良いかと聞かれている。


「なんですか前田くん、真剣に聞いているんですか?」


「真剣にもなにも! なんでこんな朝早くから結婚式に使う花なんか選ばないといけないんですか! しかもなんで俺?!」


 そう。なんでこの人は俺にそんな事を聞く為にわざわざ訪ねて来たのだ? なんかもう、最初から最後までずっとそうなんだけど、俺はこの人が分からない。情緒どうなってんの?


「前田くんもしかしてこういったイベント事に関与しない系男子ですか? 男はそんなチャラチャラした事はしない、そんな旧時代の価値観を持ち合わせたタイプなんですか?」


「そんなんじゃなくって! なんで美作さんと麗香さんの式のお花を、俺が選ばないといけないんですかって聞いてるんです! じ、自分の時は俺だってちゃんと話に加わるし……ゴニョゴニョ」


「そもそも話に加わるなんて言ってる時点で顰蹙を買う事間違いなしですよね。まるで他人事みたいな物言いで。結婚式の段取りと妊娠中に起きた出来事を、女性は生涯忘れないそうですよ。その時の立ち回りが、今後の関係性に影響すると言っても過言ではないです。前田くんもその辺りは気をつけた方がいいですよ、まぁそんな機会があればの話ですが」


 ガチめなダメ出しをされて少しヘコむ俺。なんでに、そんな事言われないといけないんだ……!


「あ、あるし……! 俺だってそんな機会あるって信じてるし……! 美作さんだって、麗香さんに言われてやってるとかじゃないんですか?!」


 負けじと美作さんに食ってかかる俺。こんな事言ってるけど、この人は人の心がないから恐らくこの話だって何処かからの受け売りだと予測する。でなければこの奇人が、人の為に何かをするわけない。


「いえ、麗香さんはむしろ、式はやめて小規模な食事会を考えていた様です。初婚でもないし、あいりの事もあるからって。そこに待ったをかけたのが、僕とあいりでした。あいりは母親の花嫁姿を見たいと言っていたし、僕としても公私ともに彼女が僕のものであると誇示できるまたとない機会なので結婚式をする事には大賛成でした」


 乙成は懐の深い子だなぁ〜〜〜〜結構ナイーブな話題だというのに、自然と受け入れているなんて!

 そして流石美作さんだ。話を聞くだけで背筋がゾクッとするなんて、この人でないと起きないからな。いつも通りで安心した。やっぱりこの人が、まともな思考でいる訳ないもんね!


「式は挙げるけど大規模なものにはしないという事で、親しい人だけ呼んでのラフな式にしようと考えているんです。不本意でほありますが前田くん、君も呼んでいるので、君ももう関係者ですよ? お花の事、ちゃんと考えてください」


「不本意なら呼ばなきゃいいのに……分かりましたよ! えっと……それなら白い花も黄色い花も両方使ったらどうですか? バージンロードの両サイドに陽だまりみたいな黄色い花を置いて、神父さんのバックに白い花を置きましょうよ。それならごちゃごちゃしないし……」


「なるほど……いい考えですね。白にはあなた色に染めてという意味もあるそうですね。最近じゃ、あなた以外に染まらないという意味で黒いドレスを着用する人もいる様です。僕は王道だけど白いドレスが好きですね。白いドレスによく映える、素敵な飾り付けにしたいですね」


「は、はは……」


 なんだろう、白いドレスの由来を普通に話しているたけなのに、そこはかとなく恐怖を感じるのは。美作さん色に染められる麗香さん……。俺は、ただただ逃げてと思うほかなかった。


 

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