第145話突撃!乙成さんち!

 土曜日。これが俺の最後の日になるかもしれない。何故かって? それは美作さんに会いに行くからだ。ゾッとするだろう? 俺もだ。


 なんでこんな事になったかと言うと、乙成の妹か弟が出来たという事で、乙成家にちょっとした騒動? が起きているらしい。一人で麗香さん達に会いに行くのが心細いとの事だったので、微力ながら俺も一緒に行く事となったのだ。昔だったら、なんで俺が……? みたいな事を言ってダラダラ長い御託を並べていたと思うが、今は違う。ダラダラ御託を並べているのは変わらんが、俺は今、乙成の彼氏である。彼女のお願いとあっちゃ、受けない訳がない。そう、彼氏なのだ。


「え? 麗香さん達、喧嘩してるの?」


 乙成の実家までの道中、電車の中で聞いたのは、いつも仲良しなイメージの強い美作さん達には似つかわしくない不穏な様子の話だった。


「はい……母が言うには、子供の事で意見が合わないとかなんとか……それで美作さんが全然かまってくれないとか? まだ生まれてもいないのに、なんでそんな事になってるんですかね……?」


 なんかよく分からないけれど、美作さんの事だ。先走って暴走していても何ら不思議じゃない。


 そうこうしている内に乙成の実家のある最寄り駅に着いた。都心からほど近い、所謂ベッドタウンという感じの所だ。比較的新しめの家が立ち並ぶ住宅街を抜けてしばらく歩く。俺達はついに乙成の実家に到着した。


「なんか、前田さんが私の実家に来るなんて、変な感じです! 狭い所ですが、ゆっくりしてくださいね」


 そう言って、乙成は玄関の扉に手をかける。と、その瞬間、まるで計っていたかの様に勢いよく扉が開いて、中から麗香さんが出てきた。ふわふわの長い髪の毛を揺らしながら、いつも通り優雅な雰囲気漂っているのに、その顔はどうも不機嫌そうだ。


「あいりぃー! やっと来た!!」


「わわっ、お母さんどうしたの?」


 いきなり飛びつかれて驚く乙成。こうして見ると、親子ってより姉妹だよな。などと考えていたのも束の間、パッと乙成から身体を離したかと思えば、麗香さんは語気も強めに美作さんの不満を口にした。


「聞いて! こうちゃんったら酷いの! に閉じ籠もったっきり、全然相手してくれないんだから!!」


「え? 子供部屋って……まさかお母さん、私の部屋、もう変えちゃったの?! この前ちょっと待ってって言ったじゃない!」


 子供部屋というワードが聞き捨てならなかったのか、不満たらたらの麗香さんに向かって、乙成も負けじと食い下がる。


「文句ならこうちゃんに言って!」


「ま、まぁ落ち着いて……」


 まだ家の中にも入っていないのに、早くもゴタゴタしている。元凶は美作さんなのは分かったが、一体全体どうなっていると言うのか。俺は、初めて来た家で親子ゲンカの仲裁に入らされているといった状況である。既にむちゃくちゃな状況だ。


「光太郎さんね! 私の部屋にいるの?!」


「あ、ちょっと……乙成!」


 美作さんに文句を言うべく、乙成は乱暴に靴を脱いで階段を上がっていく。置いていかれない様に俺もそれに続き、足早に階段を駆け上った先に、乙成の部屋とおぼしき扉が見えた。部屋の扉には「あいり」と書かれたルームプレートが掛けられている。


「光太郎さん?!」


 バン!!!! と勢いよく扉を開けて中に乗り込む乙成と、アワアワしながら後ろに続く俺。


「あいり? どうしたんですか?」


 部屋の真ん中で、床に座り込んでいる美作さんの姿。奴は顔だけこちらに向けて、不思議そうな顔でこちらを見てくる。てか、何してんの?


「光太郎さん!!! 私の部屋を、勝手に作り変えるなんて! そんなの絶対、絶対に……!」




 にゃ〜〜〜〜〜




「「え?」」



 乙成が凄い気迫で美作さんを問い詰めた瞬間、美作さんの手からピョコンと小さな毛のかたまりが飛び出して来た。


「あ! こら、アイリ!」


「「あいり?!」」

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る