第144話家族が出来ました

「前田さん、兄弟がいるってどんな感じですか?」


 いつもの昼休み。俺はいつも通りのランチパック、乙成は手作り弁当を食べながら話をしていたら、急に神妙な面持ちで乙成が俺に聞いてきた。ちなみに、今日のランチパックはミートソースパスタ味だ。こま切れになったパスタが入っている。このクタクタの麺がいいんだよ。あと、ミートソースって書いてあるのに、何故かカレーの風味を感じる。隠し味かな?


「うーん……どんな感じって言われても……小さい頃は、何かとリンに譲らなきゃいけない場面があったり? 最近じゃ話す機会も増えたから、友達みたいで結構楽しいかも」


「そうですか……やっぱり色々譲らないといけないんですね……」


 そう言うと、またしても難しい顔をして考え込む乙成。一体どうしたというのだろうか。


「なんかあったのか?」


「実は……夕べ母から連絡があって……」


「うん、それで?」


 何故か言いづらそうにモジモジする乙成。心なしか顔も赤い? 気がする。


「こ、子供が出来たって……」


「え」


 聞いたきり、俺は何故か黙ってしまった。子供って、麗香さんがだよな? って事は、相手は美作さん? ま、まぁそうですよね、二人はもうじき結婚するって話だし、再婚したら子供が出来る事もあるだろう。でも、確かに俺も、この年で親から子供出来たって言われたらちょっと気まずい感じになるな。


「それ自体は喜ばしい事なので、素直に嬉しいんですけど、ちょっと問題が……」


「どうしたの?」


「母が、実家の私の部屋を新たな子供部屋に作り変えたいと言ってまして……それで、私の荷物を処分してもいいか? って!!!! こんな事、思っちゃいけないって分かってるんですけど、ひどいと思いませんか?!」


 そう言って、蟹さん型にカットされたウインナーを荒っぽく頬張る乙成。麗香さんからの提案に、相当腹を立てている様だ。


「まぁ、確かに……何も言わずに捨てるとかしないだけ、まだマシだけどね」


「そうですけど、なんか思い出を塗り替えられる気がして……あの家は、私にも色んな思い出が詰まっている場所なのに……! こんな事って、あんまりですよ!!」


 漫画だったら、まず間違いなく頭上にプンスカと書かれているだろうな……。めちゃくちゃご立腹なのに、そんな事を考えて心の中で微笑ましく思っている俺を知ったら、多分乙成にめちゃくちゃ怒られそうなのでこれは心に留めておこう。


「あ、じゃあさ、麗香さんに直談判したら? 流石に部屋を作り替えるのは反対って!」


「そうなんですけど……母って口が上手いんですよね……何度、あの口車に乗せられてお使い事をやらされた事か……あの、それでなんですけど……」


 乙成が上目遣いで俺の方を見てくる。なんか分からないけど、今からお願い事をされる気配がプンプンする。


「え、まさか、ついてきてくれ……とか?」


「さすが前田さん! 私の心を読んで、自ら一緒に行くと名乗り出てくれるとは!!」


「まだ何も言ってないよ?!」


「私の実家、ここから一時間もかからないんです! 今度の土曜日に一緒に行きましょう!!! 光太郎さんもきっと喜びます!!」


「なんでそうなるんだ?!」


 やれやれ……言ってくれるじゃないか。俺の意見など聞く耳も持たず、乙成はさっさと土曜日の予定を決めてしまった。麗香さんが口が上手いとか言ってたけど、乙成も結構強引に話を進める所があるよな。遺伝か?


「ってか、さっき美作さんって言った? あの人もいるの……?」


「もちろんです! 一緒に住んでるんですから!」


 まぁそうですよね……麗香さんに会いに行くってなったら、当然あの奇人とも顔を合わせる訳で……。そういえば、美作さんには俺の誕生日騒動以来会っていない。あれからもうひと月が経とうとしている。


「俺達が付き合った事って、美作さんには言った……?」


「あ〜そういえば言ってないんですよね~! でも光太郎さんなら、きっと喜んでくれますって!」


 最悪だ。一ヶ月も報告が遅れて、久しぶりに会ったと思ったら付き合ってるなんて……。確かに最後に会った時は、俺達の事を認めてくれる感じではあったけど、一ヶ月経ってたら気持ちが変わっている事もあり得る。美作光太郎とは、そんな男だ。



 俺、今週末死ぬかもしれん。




 

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