ゾンビといちゃいちゃ
第140話彼女持ちの前田くん
やぁ! みんな! 俺は前田廉太郎! 何処にでもいる至って普通のサラリーマンだよ! 特に個性もないし、自慢できる所もないし、これといった趣味もないんだ!
え? つまんない人間だって? まぁそう言うなって。俺には誰にも負けない無茶苦茶な個性があるんだ!
それは、彼女がゾンビという事!
びっくりした? ゾンビなんだぜ? ゾンビって知ってる? よく映画とかゲームになってる、あの化け物だよ! 大抵は身体が腐敗していて、人を見つけたら襲ってくる。捕まったら最後、皮膚を食い破って内蔵を貪り食ったり、作品によっちゃ、首か飛んでった後にそこから何かが生えてきたりするんだ!
気持ち悪いよな?! 俺もホラーは苦手だ。なんでそんな俺が、ゾンビの女の子と付き合ってるのか……
それは俺にもよく分からない。もうなんか、あれかな? 惚れた弱み的なやつ? 惚れちゃったんだもん。仕方ないよね、うん。
そんな訳で、俺、前田廉太郎は何故かゾンビの女の子、乙成あいりと色々あった末についにカップルになったばかりだ。付き合いたてのカップルってなんか初々しくて良いよな、俺はそんな経験なかったから今が一番楽しくってワクワクしてて……
「はあ〜〜〜〜なんか最近、マンネリなんです……」
ん? 何か聞こえた様な……?
「乙成、どうしたんだよ? そんな、だら〜っと座ったりなんかして!」
俺は自分でもびっくりのハイテンションで乙成に問いかけた。場所はいつもの追い出し部屋。普段はきちんと座って食後のおやつを食べている筈の乙成が、どういう訳か今日は椅子から流れ落ちそうなくらいだらけて座っている。
「最近、マンネリなんです……デイリークエストをこなすのもしんどい……」
「で、デイリークエスト……?」
デイリークエストとはあれだ。乙成がいつもやっているゲーム、天網恢恢乙女綺譚の中の話をしているのだろう。ソシャゲやってる人は、なんか報酬を貰う為に毎日ログインしてミッション的なのをこなすんだろ?
「しんどいって……乙成毎日ログインすると蟹麿が褒めてくれるって喜んでたじゃん? 急にどうしたんだよ?!」
「うーん……」
俺の問いかけにもいまいち乗り気じゃない乙成。あんなに毎日蟹麿の事ばかり言っていたというのに……一体どうしたというのだろうか……?
「あーそれはアレだわ。お前に飽きたんだわ」
昼休みの乙成の様子を見て不安になった俺は、あろう事か滝口さんに相談をした。そして開口一番これだ。本当にいつも思うのだが、俺はこの人以外に相談する相手はいないのか? なんでいつも言った後に後悔するんだろ?
「まだ付き合ったばかりですよ?!」
「だからアレだよ。やっと付き合ったのにお前がモタモタしてるから、意気地なしだと思ったんだろ」
「滝口さん、なんか面倒くさくなってません?」
自身のデスクで、読んでもいない資料のPDFファイルを開いたり閉じたりする滝口さん。数年後に腰を壊す事確定な姿勢でだらしなく座っている。それ、もう座ってないじゃん。ほぼ寝てるよ。
「んあ? なってないなってない! ちゃんと聞いてるって! オレが気になったのはアレだな、お前ら付き合ってるのに未だに苗字呼びだろ? なんか他人行儀なんだよ」
「滝口さん達だってそうじゃないっすか」
「オレらはアレだよ。仕事の時とお前らの前でだけ! それ以外の時はちゃんと恋人らしい振る舞いしてる……筈だ」
急に口ごもる滝口さん。言いながら自分でも何か疑問に思う事があった様な口ぶりだ。
「筈ってなんすか?」
「いやさ、ここだけの話。オレと朝霧さんって、会ってる時いっつも酒飲んでんの」
「確かに……」
そういえばこの前俺の誕生日会があった時も、先日の婚活パーティの時も、気が付けば二人の手にはいつも酒のグラスがあった。そして二人とも、酒を飲むわりにそこまで強くない。って事は……
「まさか覚えてないとか?」
滝口さんが無言で頷く。もう付き合って何ヶ月だよ? 何一つ覚えてないってヤバくない?
「マジで1ミリも覚えてないんだよなあ……多分朝霧さんも覚えてないと思う。翌朝気まずそうに帰るもん」
「あんたら……」
翌朝というワードが妙に生々しいが、滝口さんだけかと思えば朝霧さんまで記憶飛ばしてるのかよ……なんかもう、ある意味お似合いの二人なのかな?
「だあってよぉ!
「滝口さん、もしかして恥ずかしいんすか?!」
俺がそう言った途端に、顔を真っ赤にする滝口さん。うひゃーなんだよぉ〜! いつも俺の事童貞ってバカにするくせに、滝口さんだって童貞みたいなリアクションすんじゃん! 不覚にもニヤニヤしちゃうんですけど〜!
「滝口さん、朝霧さんと今度シラフで会ってくださいよ……」ニヤニヤ
「いや、もういいんだ前田! 俺が悪かった! 乙成が元気ないのは、オレには解決策が見つけられん! すまないが他をあたってくれ!」
「え、でも……」
「いいから! ほら、仕事! お前は備品でも発注してろ!」
これ以上話をすると、自分達の分が悪くなると思ったのか、滝口さんはそれっきり俺の相談を聞いてくれなかった。
これは、誰か他に頼りになる人に相談するしかないな。それにしても、滝口さん達は滝口さん達でラブコメしてんじゃん! 二人がシラフでいられる日が、いつかくる事を願って、俺は未だ解決策の見出だせない乙成の事を思って心配になった。
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