第136話男にモテる前田くん
颯爽と人垣に消えていく朝霧さんを見送っていた所に、背後から急に声をかけられた。俺は驚いて振り向くと、そこには気の弱そうな男性がウーロン茶片手に立っていたのだ。
「は、はい?」
「もしかしてと思ったのですが、あなたも一人参加ですか……? いやはや、こんなに大きなパーティだと知らないで参加したもので、少々面食らっちゃって……」
気の弱そうな男性は、ハハハと力なく笑いながら話し始めた。どうやら俺も、この人と同じで一人参加だと思った様だ。少し離れた所に乙成達はいる。本当は乙成達の傍にいて、明日には顔を忘れてしまいそうな印象の薄い男達から彼女を守りたい所なのだが、この不安気な男性は、俺の姿に親近感でも感じているのかだんだんと距離を詰めて来る。
「あ、僕は竹田と言います。あなたは……」
「あ、そっか……! れ、レンレン……です!」
「レンレンさんですね! プロフィールカードを拝見しても?」
竹田さんに言われるがまま、俺は自分のプロフィールカードを竹田さんに手渡した。てか、自分でニックネームを決めといてなんだが、レンレンって名乗るのめっちゃ恥ずかしい! なんか分からないけど、俺も竹田さんのプロフィールカードを受け取った。なんで俺達男同士で自己紹介しあってるの?
「あ、レンレンさんは、イベント企画会社で働かれているんですね……な、なんか華やかそうな仕事だなあ」
「いやいやそんな事ないですよ! 僕が働いているのは地味な部署でして! 竹田さんは……出版社にお勤めなんですか!」
ヤバい。なんか知らないけど、このままだと竹田さんとの会話が盛り上がってしまいそうな雰囲気だ! 切り抜けないとと思うのだが、俺の口は勝手に竹田さんの職業について反応してしまっている。俺の馬鹿野郎!!
「そうなんですよ〜僕は囲碁雑誌の編集者でして……レンレンさんは、囲碁はお好きで?」
おいおいなんだよこいつ。話広げてきちゃったよ! 囲碁はマジで1ミリもルールが分からん。てか、こういうのって、女性相手に話をするもんじゃないの? なんでこの人俺に囲碁が好きかどうか聞いてるのさ? マジで謎なんだけど。
「はは、囲碁ってなんだか難しそうで……凄い頭を使うってイメージで……」
「ああ〜確かにそれはありますよね。僕は子供の頃から囲碁や将棋が好きだったので、テレビゲームよりも身近に感じていたものです。もっと気軽に、囲碁に親しんでもらいたいんですけどね……ああ、そうだ。都内に囲碁バーっていう、囲碁をしながらお酒が飲める所があるんですよ! そこ結構洒落てて、マスターも渋くて格好良いんですよ! レンレンさんが興味あるなら、今度一緒にどうです?」
「え……ええ?!」
なんだなんだなんだ?! 饒舌になったかと思えば、何故か囲碁バーに誘われたんだけど! なんで?! なんで俺を誘うの?!
「あ、いや……その僕はですね……」
「ちょっと、何してんのよ」
竹田さんの圧にやられそうになっていた時、タイミング良く朝霧さんが戻ってきてくれた。俺達は竹田さんに聞こえない様に少し離れた所で小声で話す。
「なんか分からないけど、話しかけられて……」
「なるほどね~。でも丁度いいじゃない? あんた男にモテるのなら、良い感じの男が話しかけてきたら四月一日ちゃんに繋いであげなさいな」
「ちなみにあの人はどうっすか? 出版社で囲碁雑誌の編集やってるんですって」
朝霧さんは、怪しまれない様にこっそりと竹田さんを覗き見る。
「あれはダメ。賢そうだし、良い人そうではあるけど、あれはあんたと囲碁がしたくて堪らないって顔してる」
「どんな顔っすか!」
「見たまんまよ。いい? 四月一日ちゃんに繋ぐのは、あんた狙いじゃない男よ! 一人参加で、グループで固まってる女の子に声をかけづらい、誰か一緒に行ってくれないかなーって思っている様な男を繋いでね!」
「そんな事言ったって……」
後方で俺の方を見ながらニコニコしている竹田さんを、どうやり過ごそうかと思案していると、今度は乙成達の所に二人組の男が近付いて行った。
「あ!!!」
「どうしましたレンレンさん?」
俺が大きい声を出すと、竹田さんが反応して心配そうに俺を見てきた。朝霧さんはそれを横目で見て笑ってるし、もうなんか無茶苦茶だ。
とりあえず竹田さんには、あなたと囲碁バーには行けないと丁重にお断りして、なんとか立ち去ってもらえた。朝霧さんが隣に居てくれたから、すんなり諦めてくれたのだと思う。俺一人だったら連絡先の交換までしていたかもしれない。ありがとう朝霧さん。
「あの男達、結構良い感じじゃない?」
竹田さんの圧から開放され、すっかり安心しきっていたが、まだ問題は残っていた。俺は朝霧さんの目線の先、乙成と四月一日さんに近付く二人組に注目した。
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