第135話作戦会議

「さて、なんとか無事にパーティに潜入出来たわね」


 司会者の寒い口上の後、再び自由時間となったパーティ会場は、先ほどよりもっと勢いを増していた。見るからにカースト上位って感じの男女達は、早くも酒を片手にプロフィールカードを交換し合って自己紹介を始めている。す、すげえや……


「朝霧さん、なんか策があるんですか?」


「いい? 今回私達が狙うのは、自分から中々声をかけづらい、少し奥手な男子を捕まえてくるのよ。四月一日ちゃんの雰囲気にあう、優しくてオタク趣味に理解のありそうな男を狙うの」


「そんなん、どうやって分かるんですか……? でも、向こうから声をかけてくるパターンだってありますよね? これだけ人がいれば、待っているだけで良い感じの人が声をかけてきそうなものですけど……」


 すっかり獲物を狩る目つきで品定めを始める朝霧さん。流石婚活慣れしている様子だ。もうなんか顔が怖いもん。そんなガツガツしてたら、男の方が警戒して寄ってこなさそうだ。


「もちろん、良い感じの男を見繕ってくるのは私がやるわ。四月一日ちゃんと乙成ちゃんは、ここで男が釣れるのを待ってればいいの。話しかけてくる男がいれば、それはそれでって感じだけど、正直四月一日ちゃんに見合う男かどうか……大体ね、こんなコミュニケーション能力を試される様なパーティでガツガツいける奴なんてね、パーティなんか来なくったって相手が出来んのよ。出来ないのはよっぽど性格に難があるか、第一印象で怖がられちゃう奴だけね」


 ほう、つまり朝霧さんもその一人って訳か……。俺は心の中で妙に納得してしまったが、決して口に出してはいけない事は分かっていた。口に出そうもんなら、まず真っ先に四肢を裂かれてしまうだろう。ここは静かに、朝霧さんの作戦に耳を傾けておこう。


「オレは何したらいいんすか?」


 既に何杯目かのお酒を飲んで上機嫌になりだした滝口さんが話しかけてきた。これは帰る頃にはかなり出来上がっているのではないか?


「滝口、あんたはとりあえず私達が知り合いだとバレない様に適当に女の子に話しかけてきなさい」


「了解っす!」


 そんな事でいいのかといった様子で、滝口さんは意気揚々と参加者の女性達に声をかけに行ってしまった。


「朝霧さん、良いんですか? 女性に話しかけに行かせるなんて……」


 一応、滝口さんは朝霧さんの彼氏である。俺達の前では今までとそんなに変わらない雰囲気でいる二人だが、なんやかんやで二人はうまくいってるみたいだし、こんな恋愛感度の高いパーティに参加している女性達の所へ行かせて大丈夫なのだろうかと心配になった。


「大丈夫よ。ちょっと話せば、滝口のクズさが分かって相手の方から離れて行くから」


 あ。分かっていらっしゃる。そうだ、最近彼女が出来たからすっかり忘れていたけれど、滝口さんは基本的にはクズなので、毎週合コンしてても全くと言っていい程女性に相手にされていなかったのだ。それでも定期的にの女の子がいたのだから、世の中にはまだまだ物好きがいるのたろう。この中にも、その物好きがいないとも限らないが、ここは結婚を前提とした、健全な出会いを求めている男女が集まる場所だ。ある程度普通の感覚を持っている人なら、滝口さんを良いとは思わないだろう。つまり朝霧さんは異端である。


「あ、それで俺は何を……? まさか、俺まで女性に話しかけに行けと……?」


「前田は乙成ちゃん達のボディガードよ。目がバッキバキのヤバそうな男が近付いてきたら、それとなく二人を遠ざける! ああ、それと、ここではニックネームで呼び合うのよ! 朝霧さんは禁止! 今日の私はハル! 乙成ちゃんはあいりん! 四月一日ちゃんはさっちんだからね! 以上!」


 目がバッキバキて……そんな奴がこんなパーティにいるとは思えないけどな……。なんかみんなちゃんとした大人の人ばっかりだし。朝霧さんは、俺に手短に指示だけすると、早速良さげな男性に話しかけに行ってしまった。


「はあ、それにしても朝霧さん、随分と生き生きしてるな。本当は自分が来たかっただけじゃないのか……?」


 


「あのぅ……すみません」



 その時突然、背後からポンと肩を叩かれた。


 


 

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