第137話君ら楽しくお喋りしてるけどさ、その子ゾンビだよ?

 俺は乙成達に近付く男二人組に注目した。ごく一般的なスーツに身を包んだ、ごく一般的な顔立ちの二人組だ。人の事言えたもんじゃないけど、明日には忘れる顔立ちの男達だ。モブ顔である。シーンが切り替わって、他所の街に行ってもそこにいる顔だ。モブAとモブBは、厚かましくも乙成達に笑顔で話しかけている。この不届き者め!


「どこがいいんすか? あんなの。普通じゃないですか?」


 俺は男達を見て、朝霧さんに悪態をついた。見てみろよ? 会話のセンスとかゼロそうじゃない? 普通の事しか言わねぇよ? 朝起きてから寝るまで普通の事しか言わない男なんて、楽しくなくない?


「前田、あんたは分かってない。で普通の男がどれだけ貴重な存在か。勿論、女も然りよ! 朝起きてから寝るまで普通の事しか言わない相手をみんな求めているんだから!」


「ぐ……それにしても、あの二人組のうちの片方、ちょっと距離感近くないですか? 乙成と肩ぶつかりますよ」


「うんうん。積極性もあり、と。あぁ、あんた達付き合ってるんだっけ? こんな事くらいで嫉妬なんて、器が小さいわね。乙成ちゃんは言わば囮! メインはあくまで四月一日ちゃんなんだから、こんな事くらいで嫉妬なんかしないの! とはいえ、まぁ分かってた事だけど四月一日ちゃんは話さないわね。乙成ちゃんが必死に場を繋いでる感じになってるわ」


 朝霧さんに諭されても、俺の視線はモブAと乙成の肩の辺りに集中していた。ここで初めて、美作さんの気持ちがちょっと分かった気がする。まぁ、俺はあのモブAみたいに、あんないやらしい目で乙成の事を見たりなんかしてないけどね! 俺はいつだって紳士的だけど、モブAの目は変態のそれだもん。あいつ、絶対ヤバい性癖持ちとかだわ。なんで大勢の女性がいる中、敢えてゾンビに行くわけ? え、もしかして死体愛好者ネクロフィリア? 死体にしか興奮出来ないとか、人の不幸まで興奮材料とかヤバくない? 理解出来ないわ。マジで。


 それにしても、流れとはいえ乙成は可哀想だ。本来乙成もそこまで社交的ではないのに、よく喋る朝霧さんもいなくて、四月一日さんはモジモジしてるもんだから、無理にでも自分が話さないといけないなと感じているのだろう。相手の男に失礼のない様に、必死に振る舞う乙成を見ていると、助けてあげたくなってくる。あの男はもう少し離れた方がいいと思うけどな。やらしい気持ちが透けて見えてるわ。穢らわしい。


「あ。離れたわね。うーん……良い感じだけど、ちょっと場馴れしてるかなあ? 四月一日ちゃんには、もっと心根の優しい男がいいと思うのよね~」


 ようやく離れて行った男達を見て、俺は心底ホッとしていた。全く、付き合ってまだ日が浅いというのに、俺はなんで自分の彼女が他の男と話している所を見せられないといけないのか。俺にはの趣味はない。


「じゃあ私はもう一回良い感じの男がいないか見てくるわね。あんたも男が近付いてきたら、四月一日ちゃんに繋いであげなさい」


 そう言って、婚活モンスターことは再び男を漁りに行ってしまった。俺思うんだけどさ、あの人四月一日さんの為とか言って、自分が楽しんでるんじゃない? やっぱり長年培ってきた婚活の血が騒ぐのだろうか……


 その後も、度々乙成達に話しかけてくる男達に遠目から恨みいっぱいの目線を送って地味な牽制をしながら、何故か俺目当てでやってくる男達を上手くいなしたりしていた。



「ふぅ……」



 婚活パーティもそろそろ最終局面に差し掛かった頃、なんだかドッと疲れた俺は、一人壁際に移動した。壁際にはいくつか椅子が置いてあったが、そこには既にカップルが成立したのか、二人っきりで話をしている男女が陣取っている。俺は仕方なく、そんな男女とも少し距離を取って、ジンジャーエール片手に隅っこでちんまりとしていた。


 俺……何やってるんだろ? こんな所で一人でさ。みんなどっか行っちゃって戻って来る気配ないし……


 なんだかんだで、乙成も楽しくやっているのだろうか……? 俺達って付き合ったばかりで、まだ彼氏彼女としての思い出とかは全然ない。これから作っていきたいと思っていた矢先のこれである。もうちょっとみんな配慮するべきでは?


 俺は、考えても仕方のない事をぐるぐると考えながら、気の抜けたジンジャーエールのグラスをカラカラと回していた。


「前田さんっ」


 その時、ピンクのフワフワしたスカートが、俯いた俺の視界にフッと姿を現した。

 


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