第125話前田誕生祭 前日
4月29日まで、残す所あと1日となった。
今日で24歳童貞ともおさらば。明日からは25歳童貞、前田廉太郎の誕生である。そして今日は日曜日。と言っても、例によって例の如く予定がない為もうじき昼だというのにまだ寝ている。お布団最高……
♪〜♪〜♪〜
ゴロゴロしていた所で、俺のスマホがけたたましく鳴り響いた。時刻はもうすぐ11時になろうとしている。この時間にかけてくる相手といえば……
「もしもし?」
「あ! 前田さん! おはようございます!!」
乙成である。休日の午前中に乙成と電話で話す事が、もうすっかりお決まりになっている。分かっているのなら、起きて乙成からの連絡を待つか、自分からかけろって思うかもだけど、毎回乙成に起こされるのがいいのだ。好きな子からのモーニングコールって、ドキドキしない? 俺だけかな?
「ついに明日になりましたね! 前田さんのお誕生日!! 今から明日の仕込みを始める所なんです!」
早速話題は、俺の誕生日についてである。ここに関しては前々から乙成が盛大に料理を振る舞ってくれるそうで、俺の誕生日が祝日という事も相まって乙成の家で行う事になっていた。
「そんな無理しなくていいからな?」
「なに言ってるんですか!! 年に一度のお祝いですよ?! 私、今回もたくさんご飯作っておもてなしするので、楽しみにしててくださいね!」
自分の事の様に喜びながら話す乙成。俺の誕生日なんざ、ここ数年親ですら連絡をして来ない事があるってのに。
「わかった、それじゃすごーく楽しみにしてる」
電話の向こう側で、乙成が照れたのが分かる。誰かが自分の為に何かしてくれるって良いものだな。普通に考えたら、料理の材料を買うのだって結構大変だしお金もかかるのに……
「あの……まさかとは思うけど、
「まさか! 光太郎さんには前田さんの誕生日の事は知られてない筈ですし、母が明日は何処かへ出かける予定だって言ってました! ですが……やっぱり前田さん、光太郎さんに来て欲しいですか?」
「いやいやいや!! そんな訳ないって!!!」
電話の向こうの乙成は、懐疑的な様子で俺の否定の言葉を聞いていた。何処をどう切り取ったら、俺と美作さんが良い感じだと勘違いするのだろうか……。マジで不快だし、本当に本当に勘弁して欲しい。そんな様な釈明をしばらく続けた所で、ようやく乙成が納得し、この日の電話は終わった。
「ふぅ……危なかった……またしても乙成に美作さんとの仲を勘違いされる所だった。てか、今更そんな心配なくね……?」
ブツブツと独り言ちた所で、なんでこんなにも乙成が美作さんの事を気にしている理由がはっきりと浮かび上がってきた。
それは俺達がまだ付き合っていないから……
いや、でも美作さんはないだろ。分かるよ? これが、めちゃくちゃ可愛い新入社員とかが相手だったら。ショートカットで巨乳の、やたらとボディタッチの多めな新入社員とかなら、乙成がヤキモチを焼く理由も分かる。男だぞ? 俺、乙成に、男に興味があるとか言ったっけ?
あれかな? 天網恢恢乙女綺譚の同人誌とか読みまくってるせいかな? もう全部ソレに見えるくらい、乙成の目は腐っているのか? あ、ここで言う「腐ってる」は腐女子的な意味の腐ってるであって、乙成がゾンビだから腐ってるとかとかじゃない訳で……なんかもうややこしいな! 腐女子の「腐」と、ゾンビの「腐」をかけてみました的な意図は全くないからね! どっちの意味でも腐りだしだのは、
てか、むしろここはショートカットで乳のデカい、ボディタッチ多めの新入社員を持ってくるべきだろ。色気がねえんだよ! ゾンビと変人(男)だとよ!!!
つい考え過ぎて熱くなってしまった。俺は、一旦落ち着こうとベッドから起き上がり、キッチン兼廊下にある冷蔵庫の中からお茶を取り出して一気飲みをした。部屋の中は妙に蒸し暑くなっていたし、喉を通る冷たいお茶が心地よい。
喉を鳴らしてグビグビ飲んでいたのも束の間、廊下の先にある玄関のドアから、何やら不穏な気配を感じて背筋が寒くなった。
いる……何か良くない物がそこに……
ピンポーン……
俺はそっとペットボトルをシンクの上に置く。さっきまで散々音を立てていたから、もう今更居留守を使ったって遅いのだけど。インターホンにはギリギリその姿は映っていない。少し怖いが、俺は玄関ドアの覗き穴を確認する事にした。
ゆっくり……ゆっくり、音を立てるな……
ピンポーン
またしてもインターホンが鳴る。玄関ドアまであと少しだ。この背筋に感じるゾワゾワ……ドアからは禍々しいオーラが出ている様にも見える。
この感覚には覚えがある。そう、それは……
美作さんだ。
俺は覗き穴に静かに顔を近づける。音を立てない様に小さな穴を覗き込むと、そこにいたのはやはりサイコパス美作だった。
♪〜♪〜♪〜
!!!!!!! しまった! 俺のスマホが!!
手にしているスマホがけたたましく鳴り響く。覗き穴越しの美作さんの手にはスマホは握られており、ドアを挟んで中から聞こえてくる着信音を確認するとニヤッと笑った。
「前田くん、いるのは分かっているのですよ。ここを開けてください」
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