第122話鈍感系主人公

 ある晴れた昼下がり。日差しはポカポカしていて、ちょっと暑いくらいだ。もう春ってより初夏だな。


 芽吹いたばかりの緑の青い匂いを、胸いっぱい吸い込む。それだけで心が晴れる様で、どうしようもなく清々しい気分になる。いいな、春って。やっぱり俺、春が一番好きだわ。


「前田くん。あっちでお弁当食べましょう。ちゃんと作ってきたんですよ」


「…………」


「あ! 光太郎さんばっかずるい! 前田さん! 私もピクニックにぴったりなお弁当作ったんです! 食べましょう!!」


 昼下がりの公園にて。俺は今、の真っ最中だ。


 厳密には初デートとは認めていない。俺と美作さんの二人っきりじゃないからな。そんなもん、想像しただけでゾワゾワして震えが止まらん。乙成も一緒に来てくれているから、これはデートというより普通のピクニックという事になるだろう。


 それにしても……


 俺の右隣には高身長の儚げな美男子。そして左隣にはゾンビの女の子。間に挟まれるちんちくりんな俺。端からみて、俺達はどう見えているのだろうか……。


 そしてどういう訳か、このピクニックが決まってからというもの乙成の様子が変だ。なんかソワソワしてるし、心なしか美作さんへの態度に棘がある気がする。一体どうしたっていうのだろうか……?


 俺達は公園の景色が見渡せる、小高い丘にレジャーシートを敷いて昼食にする事にした。ここなら人通りも多くないし、座ってゆっくりするのには最適だろう。


「今日はピクニックなのでサンドイッチを作ってきたんです! 前田さん、サンドイッチ好きですか?」


「え、うん! 好きだよ! これってオールパストラミサンド?! 俺これ好きなんだよ!!」


「それは良かったです!! 今日のテーマはアメリカの学生の昼食です! 色とりどりのフルーツも持ってきました! あとデザートも作ってきたので、後で食べましょう!」


 溢れんばかりのパストラミビーフサンドだ。俺の前世の記憶だろうか、俺はこのオールパストラミビーフサンドを見ると、アメリカ人だった様な気がしてくる。おいおい、マジかよ? 春の陽気にあてられて、俺までおかしくなっちまったっていうのかい?


「前田くん、僕も大量の唐揚げを作ってきました。これも食べてください」


 そう言って美作さんが手渡してきたのは、重箱に入った唐揚げ達。しかも全部味付けが違う。こ、こんな豪勢な物を、この変人が作ったというのか?


「光太郎さん、それお母さんに手伝ってもらったでしょ?」


「いけませんか? 麗香さんの唐揚げは絶品です。前田くんにも、この究極の唐揚げを食してもらいたいのです」


 あ、良かった。麗香さんが作ったのなら多分変な物は入っていないと思う。変なお茶は出す人だけど、お茶以外は問題ないと思っている。


「お母さんに手伝ってもらうのは反則だよ! そんなの美味しいに決まってるのに!」


「でもあいりのサンドイッチも美味しそうですよ? 麗香さんの唐揚げには負けますが」


「むぅ〜〜〜〜〜〜〜!」


 ほっぺたを膨らませて悔しそうにする乙成。そんな様子を見て、大人気なく勝ち誇った顔をする美作さん。自分の手柄みたいな顔してるのが腹立つな、美作さん。


「け、喧嘩すんなよ……」


「前田さん! どっちが美味しいか点数をつけてください!!」


「は?! なんでそんな……」


「おや? あいり、随分と自信があるようですね? でも良いんですか? 麗香さんの唐揚げですよ? あいりもこの味は知ってるでしょう?」


「ぐ……でもでも! 前田さんは私のサンドイッチを選んでくれる筈です!! さぁ! 前田さんどうぞ!」


 俺の目の前にはサンドイッチと唐揚げの山。期待のこもった目を向けてくる二人。


 俺……


 俺は一体、どうなっちゃうの〜〜?


 


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