第116話女子会inガールズバー

「おはよおー! あ! 兄貴達来てんじゃん! あいりんまでいるーーーーー! 言ってくれればオープンから来たのにい!」


 このクソみたいに冷え切った席に、出勤したてでテンションブチ上がりのリンがやって来た。今日も相変わらずスカートが短い。ヘソが出てる服を着ているが、腰周りがモロ男なのは気にしていないのか? いや、むしろここの客はそれが良くてリンに会いに来ているのだろうか……?


「え、何このお通夜みたいな空気」


 来て早々、すっかり盛り下がっている俺達を見てドン引きするリン。そりゃあそうだろう、なんせここはガールズバー。こんな所に葬式モードの人達なんか来ない。本当に葬式後だったとしても、もうちょっとテンション上げてる筈だ。


「これはまいにゃんが……」


 俺は簡単にだが、事情をリンに説明した。それを聞くなりリンは、なるほどなぁと納得した様子で頷いた。そういえばまいにゃんとリンって、だったんだっけ? いや、これはなんか生々しいから考えない事にしておこう。


「まいにゃんは超現実主義だからなあ~! それで? は、夜遊び辞めるの??」


 いつからタキグッチーなんてあだ名で呼んでいるのか分からないが、俺が知ってる時よりずっと仲良くなった様子でリンが質問した。本当に、こいつのコミュニケーション能力は一体どうなっているんだ?


 さっきのまいにゃんからのダメ出しのせいで、すっかり元気のない滝口さん。リンの質問にも、うーん……と頭を抱えたままで動かない。


「オレ、どうしたらいいと思う?」


 いつになく真剣な表情の滝口さんに、リンをはじめとする女性陣は全員考え込んでしまった。あ、ついリンを女子としてカウントしたけど、こいつは俺の弟で立派な男だ。今更だと思うけど念の為ね。


「まいが思うに、お局さんと付き合ったならもうちょっと真面目になった方がいいと思う」


 お?


「禾ムмσξゥ思レヽмα£!浮気ノ|ダメ〒゛£!」(私もそう思います! 浮気はダメです!)


 ん? え、えーと……


「るりたぬきちゃんもそう思うって〜」


 すかさずまいにゃんが通訳をしてくれる。本当に面倒くさいな、このシステム。


「俺も! 美晴さんいい人だし、タキグッチーが、二人お似合いだと思うけど!」


「そういえば、前に"ちゃんとした男"っていましたよね?」


 リンが放った、「ちゃんと」というひと言に、俺の中の遠い記憶が呼び起こされた。以前、朝霧さんと二人でお茶をしていた"ちゃんとした男"。近くに寄るだけでいい匂いがしそうな、好印象を絵に描いた様な男だ。


「えっ何なに?! 美晴さん、他に男がいんの?!」


「いや、男って訳じゃないけど……」


 興味津々の女性陣に、俺は以前滝口さんと出くわしたちゃんとした男についての話をした。


「…………で、結局は出版関係の人だったんだけどさ」


「「……………………」」


 俺が一通り説明し終えた瞬間、それまで楽しそうに聞いていた女性陣の顔がマジになった。


「なにその男、めっちゃ良さそう」


 と、まいにゃんが電子タバコの煙を吐きながら答える。


「爽ャカ`†ょ男性っ乙良レ丶〒"£∋Йё♪」(爽やかな男性って良いですよね♪)


 何を言っているのか分からないが、るりたぬきちゃんがちゃんとした男の事を褒めているのは分かる。その証拠に、少し顔が赤いからな。


「「うーん……これは……」」


 そしてリンと乙成。二人は声を揃えて考え込む様に低く唸った。


「滝口さん、これってピンチなのではないでしょうか? その方、今後も朝霧さんと会う機会があるんですよね? そんなちゃんとした方、この辺じゃ滅多に見ないですよ」


「俺も、あいりんの意見に賛成! タキグッチーやばいんじゃない? いつまでもタキグッチーがそんなだと、美晴さんに愛想尽かされてさ、そんな時に傍にいたちゃんとした男に……なんて事もあり得るよ?」


 女性陣の緊迫した様子に、滝口さんの顔がどんどん青ざめていく。付き合ってまだ1日しか経っていないというのに、ダメ出しはされるわ、別の男に鞍替えされる事を懸念されるとは……流石にちょっと気の毒になってきた。


「いやいや! お前ら考え過ぎだって!! 朝霧さん、あのちゃんとした男とは何にもないって言ってたし……」


 滝口さんか必死に弁解するも、女性陣の顔は疑いの色を浮かべたままだ。勢いよく立ち上がって放った言葉は、そんな女性陣の目にさらされたせいで力なくしぼんでいく。憐れなり、滝口さん。


「くっ……前田ァ! 急に喋りだしたかと思えば!! お前がちゃんとした男の話を出すからこんな事に!!!」


「え?! 俺?! いや確かに話には出したけど……なんか、すんません……」


「もしかしてみんな、オレと朝霧さんが付き合うの、まだ早かったなんて思ってる……?」


 みんな言葉には出さないが、女性陣の目は確かにそう言っている様であった。なんやかんやでフォローしていた乙成までも。


「そ、そんな……! クソ! もう知らん!! なんで金出してこんなボロカス言われにゃならんのだ!! 帰る!!!!」


「あぁ! 滝口さん……!」


 呼び止めたが、滝口さんは荷物をまとめて出て行ってしまった。余程ショックだったんだな。


「あーあ、いじけちゃった〜。まぁ滝口の事だから、明日には忘れてるよ。それよか、レンレン。滝口の分のお勘定、レンレンが出してくれるんだよね? あいつ、うちらにも結構飲ませてたけど」


「ええ?!」



 笑顔で伝票を手渡すまいにゃん。さっき、金払って〜とかなんとか言ってたよな? 金払ってねぇじゃん。こうして俺は、滝口さんに軽い殺意を覚えながら、財布からいくらかの札を払って、乙成と二人で店を後にした。


 


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