第115話ナ=”カ`ζ、ガ⇒ノレズノ ヽ"⇒レ£イ廴聿全ナょぉ店ナ=”っτ!

「実はオレ、彼女が出来たんだ……!」


「ふーん。で?」


 意を決して告白した滝口さん。しかしまいにゃん達ガールズバーの女子達のリアクションは、驚くどころか「それが?」みたいな感じだった。


「驚かないんですか……?」


 疑問に思った乙成が、まいにゃん達の方を見て呟く。まいにゃんはやれやれ顔で肩をすくめる仕草をした。


「ここはガールズバーだよ? 彼女持ちも既婚者もみんな遊びに来る所! フリーの男しか来る事を許されない場所じゃないって!」


「`ノ宀〒"フ、∋!ガ⇒ノレズ八"⇒ノ|イ廴聿全ナょぉ店〒"フ、!」(そうですよ! ガールズバーは健全なお店です!)


「ほらあ! だから言ったじゃん!! お前らだけだって! 飲み屋くらいで大騒ぎしてるの!」


 どうします? と、乙成は俺の方を見てくる。ここじゃ完全に俺達の分が悪い。


「〒゛мσ、彼女±ω一筋ナg囚っ〒・z素敵〒゛£ょйё!」(でも、彼女さん一筋な人って素敵ですよね!)


「えー? るりたぬきちゃんマジで言ってるー?」


「何?! なんて言ったの?!」


 多分今、るりたぬきちゃんがちょっと良い事を言った気がする。こんな見た目してるけど、心はとても清い子なのだ。俺はなんて言ったか気になって、まいにゃんに通訳を頼んだ。


「るりたぬきちゃんは彼女一筋な男が良いんだってよ〜」


「ほら! 滝口さん聞きました?! るりたぬきさんもですよ!! 多数決なら私達が勝ちです!!!」


 るりたぬきちゃんがこちら側についたと見て、興奮した様子で滝口さんに突っかかりにいく乙成。いつの間にか、


 俺 乙成 るりたぬきちゃん


 滝口さん まいにゃん


 みたいな感じで分断されてしまった。正直俺はどっちでも……いや、ここは乙成に合わせておこう。俺が向こう側についたと思われれば、乙成に何されるか分からない。


「ぐ……まだだ! まだ前田弟が来てないだろ! あいつの意見も聞いてみようぜ!」


 何故か滝口さんも意地になっている。なんで俺達は、こんな所でどちらが正しいのか競い合っているんだ?


「てかさ、なんで滝口の彼女の為に、がそんな必死になんの?」


 いつの間にか乙成をあだ名呼びするまいにゃん。電子タバコを何本か吸う内に、すっかり乙成とも打ち解けたらしい。それにしても電子タバコ持ってるの似合うな。キャラクターのポシェットから替えのフィルターを取り出す姿がなんかシュールだけど。


「それは私の上司でもある朝霧さんと滝口さんが付き合ったからです! 朝霧さんとっても優しい人だし、滝口さんが変な事して、傷付くのを見たくないんです!」


「えっ! 滝口あのお局っぽい人と付き合ったの?!」


 乙成の言葉に、まいにゃんが驚いて身を乗り出す。お局っぽいという表現を、朝霧さんが聞いたら激怒しそうではあるが、確かにお局っぽい人なのであながち間違いではないだろう。


「へへ……まあ、そういう事だ!」


 朝霧さんの名前を出されて、分かりやすくヘラヘラしだす滝口さん。まいにゃんは相変わらずびっくりしてるし、るりたぬきちゃんはなんだか嬉しそうだ。


「へぇ〜なんか意外。滝口って、犯罪スレスレのめちゃくちゃ若い子が好きなんだとばっかり思ってた」


「オレは成人済みしか興味ないぞ!」


「まぁなんだっていいけど。てかさ、そんな大人の人ならも考えてるんしょ?」


「へ?」と、滝口さんが間抜けな声を出す。まいにゃんの言った、先の事の意味が理解出来ていない様だ。そんな様子を見たまいにゃんは、はぁとため息をついてタバコのフィルターを灰皿にポイと投げ入れた。


「滝口さ、大学生とかのノリで付き合うのと訳が違うんだよ? 相手は大人。しかも明らかにずっと男がいなさそうだった女。結婚とか諸々、視野に入れて無いわけないじゃん。滝口は毎週飲み屋にばっか行ってさ、バカスカお酒頼んでさぁ、絶対貯金とかしてないっしょ? どうせ仕事も真面目にしてないだろうし。まいだったら、そんな男やだな。これで2、3年付き合ってみ? 滝口絶対愛想尽かされるし、お局さんも時間ばっか無駄にしてさ、お互い良い事ないじゃん」


 まいにゃんの鋭すぎるツッコミに、滝口さんはただただ閉口していた。流石に言い過ぎだ! とも思ったが、まいにゃんの意見に妙に納得してしまった。この子、今時って感じの子なのに案外現実的だよな。るりたぬきちゃんといい、この店は女の子のギャップで売ってるのか?


「え……オレってそんなダメ? もっとちゃんとしないとダメかな……?」


 分かりやすく滝口さんの元気がなくなっていく。思いがけない本気のダメ出しに、心を折られてしまった様だ。


「で、でも滝口さん! 朝霧さんを好きな気持ちは本物ですもんね? だから今日もこうやって、夜遊びと決別すべくここにやって来たわけで……」


 あ、なんか乙成がフォローに入ってる。あんまりにも不憫で見てられなかったんだろうな。やっぱり乙成は、この世界の唯一の良心だ。


「あいりん、好きだけじゃやっていけないの。ちゃんと先立つものがなきゃ。お金がなくても好きな気持ちがあればやっていけるとか言ってる人達いんじゃん? あれ、嘘だから。そんなの、飢えた事のない人が言ってる戯言だよ。明日食べる物もない世界にいたら、好きなんて思いだけじゃやっていけないんだよ」


「そ、そんな……」


 まいにゃんにぴしゃりと否定され、乙成までしぼんでしまった。二人してしょんぼりと下を向いてしまっている。こんなガンガン音楽の鳴ってる店内で。周りのサラリーマン達は「ウエーイ!」みたいな感じで乾杯してるってのに。まいにゃん、お前何があった?


 俺達の席はすっかり盛り下がってしまった。身内に何かあったのかと勘違いされるくらい暗い雰囲気の中、丁度店の奥から救世主とも言える人物が、目隠し用のカーテンを開けて店内に入ってきた。



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