第114話地雷系と電子タバコの相性は最高

「お、おい……乙成……」


 止めようにも火がついてしまった乙成。滝口さんの夜遊びを辞めさせるべく、夜の店の女性達に、彼女が出来たと伝えに行こうと言い出したのだ。


「いやオレ飲みには行くけど、店の子とはなんもないよ?! なんで彼女が出来た報告しなきゃなんないの?!」


「そんなの決まってます! 滝口さんの夜遊びが発覚して、朝霧さんが悲しむのを見たくないからです! 浮気なんて絶対にダメです!!!」


 どうやら乙成的には、女の子が相手をする店は全て浮気という認識らしい。それもまた極端な意見だとは思うが、まぁ滝口さんは普段の行いが行いだから、軽い飲みすら不貞だと言われても仕方のない事なのかもしれない。


「やだよ!! 飲みと彼女は別じゃん! なあ前田、なんとか言ってくれ!」


「俺も賛成っす。滝口さん、酔うともっとだらしなくなるし、不安要素は最初の内に潰しておいた方がいいかと思います」


「お、お前……!」


 ふ……、ざまあみろ滝口め。これも俺から主役の座を奪った罰よ。ちゃんと禊を済ませておくんだな!



 その夜。俺達は滝口さんの行きつけのガールズバーへとやって来た。


「あの、私もご一緒して大丈夫だったんですかね?」


 昼間はあんなに息巻いていた乙成だったが、夜の店が立ち並ぶ繁華街を前にして、すっかり自信がなくなってしまった様だ。


「大丈夫だよ、男同伴なら普通に入れるしさ」


「なぁお前ら。本当に行くのか? いいのか前田?! オレが店に行かないと、お前だって来れなくなるんだぞ?!」


 この期に及んで、まだ渋っている滝口さん。心なしか歩くスピードも俺達と比べて遅い。


「俺は平気っす!」


「クソ……」


 そうこうしている内に店に着いた。相変わらずの毒々しい看板。夜の店の看板のセンスってすごいよな。派手でナンボって感じで。ちなみに、ここは繁華街の入り口に位置するガールズバーだ。奥まで進むともっとディープな名前の店が多く見受けられる。流石にそこには、乙成は連れて行けないな。


「L1ζっιゃL1мα世〜」


 最初に出迎えてくれたのは随分久しぶりの登場、るりたぬきちゃんだ。相変わらずめちゃくちゃギャルだ。


「ま、前田さん……あの方なんて……?」


「多分、いらっしゃいませって言ったんだと思う……」


 一時は彼女の言葉も理解出来た時もあったが、しばらく会わない内にまた振り出しに戻ってしまった。ほんともう、マジで何言ってるのか分からない。


「まいにゃんいるー?」


 さっきまで渋っていた筈の滝口さんは、店に入るなりいつものテンションで席についた。とりあえずビールね! と、るりたぬきちゃんに注文すると、ネクタイを緩めて早くもリラックスモードだ。


「滝口さん! 今日は楽しむ為に来たんじゃないんですよ?!」


「分かってるって! でも折角来たんだ、これで最後になるなら、ちょっとくらい楽しんだっていいだろ?」


 むむう……と、口を尖らせて不満気な乙成。俺達も突っ立っているままじゃアレなので、滝口さんに並んでカウンターの丸椅子に腰掛けた。


「あのギャルの子は、前に一度お会いしましたよね。確か、バレンタインの前に」


「そういえばそんな事あったな。あの時はリンとクイズ大会なんかをして……」


「あの時はちゃんと言わなかったですけど、私、前田さんが頑張ってクイズ答えてくれたの嬉しかったですよ?」


「ハハ、でも結果負けちゃったけどな」


 そう言って、俺達はちょっと照れくさくなって笑い合う。あれ? これ、ちょっといい雰囲気じゃね?


「滝口じゃん。おつ〜」


 電子タバコを握りしめながら、まいにゃんが店の奥から出てきた。客の前でもお構い無しにスマホをいじっている。画面をタップする度に、長い爪がカチカチあたる音が気になる所だ。押しづらくないの?


もいんじゃん〜。この後リンちゃんも来るよ」


「え! リンちゃんも働いてるんですか?!」


 驚いて思わず立ち上がる乙成。そうか、乙成はリンがここでバイトしてるの知らないんだっけ?


「そそ。リンちゃんマジで人気者なんだあ〜。てか、レンレンの彼女さんじゃん! おつ〜」


「か、かか彼女だなんて……! そんな!」


「え、違うの?」


「////」


 恥ずかしがって顔を真っ赤にする乙成。その様子を見て、まいにゃんはなんだかニヤニヤしながら俺の方を見る。な、なんだよ……。こっちまで照れるじゃないか。


「そんでー? みんなして飲みにくるなんて珍しいじゃん? 滝口はまぁ、いつも来てるけど。なんかあったの?」


「あ、実は……」


 俺達は二人して、るりたぬきちゃんと噛み合わない会話を楽しんでいる滝口さんの方へと目を向ける。俺達に見られて滝口さんも観念したのか、はぁ……と大きなため息をつくと、改めてるりたぬきちゃんとまいにゃんの方を見た。


「実はオレ……彼女が出来たんだ……」


 


 

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