第111話狂人と女装男子

「君達は一体、何を企んでいるのですか?」


「え?! 何も企んでなんかいないですよ?!」


 意識を取り戻したかと思えば、急におかしな事を言い出す美作さん。おかしいのは今更か。もうまともな時の方が少ないわ。なんで麗香さんは、こんな奴が良いんだろう……? 7割くらい会話成り立ってないってのに……。


「前田くん、兄弟揃ってあいりにちょっかいかけてるんですか? 一人は女装までして」


「い、いや……」


 否定しかけたけど、あながち間違いではない。ついこの間まで、俺とリンは乙成を取り合って(?)いたのだ。兄弟揃って乙成にちょっかいかけていたと言われれば、当たってる所もある。


「………………」


 ヤバい。美作さんめっちゃ俺を睨んでくる。なんで俺に敵意を向けるんだよ……! 乙成にベタベタしてるのはリンじゃないか!


 今、このテーブルは完全に二分されている。乙成達は俺の事なんかお構い無しに、おおいに焼き肉を楽しんでいる。うう、羨ましいぜ……!


「ねえね、兄貴達何話してるの?」


 俺が美作さんに睨まれて固まっていると、リンが興味津々な様子で話に加わってきた。ごくごく自然に、俺の肩に腕をまわして話すリンの姿に、美作さんの眉がピクリと動く。明らかに怪訝そうな表情だ。


「あの、弟さん」


「リンでいいですよお! 俺も、って呼んでいいですかあ? みたいに!」


 ヤバい。美作さんの瞳、色を失ってる。今まで生きてきて関わる事のなかった人種と対峙したら、人ってこういう反応になるんだな。リンのグイグイ系のノリに、早くも美作さんが押されている。これはリンの方が優勢か? いや、まだだ。美作さんも負けないくらい変人だからな。

 なんでか分からないけれど、俺はこの二人の異種格闘技戦に、早くも結末が知りたくてウズウズしてしまった。


「君はなんですか?」


 おお、今度は美作さんが仕掛けたぞ。まずは軽いジャブからだな、うんうん。


「え? そうだよー! 男の娘とか、女装男子とかって呼ばれてる! 可愛い物が好きなんだあ!」


 つ、強いなリン……。美作さんと初対面にしてタメ口、そしてこの笑顔。多分本作に出てくるキャラの中で、一、二を争う顔の良い二人。その二人ともただ者じゃないなんて……向かい合っている姿だけでも、見る人が見たら眼福な光景なのだろうが、なんせどっちもクセが強いタイプだ。この世界にはまともなイケメンはいないのか?


「たち悪いですね……」


「え?」


 ボソッと美作さんが呟いたので、反射的に聞き返してしまった。相変わらず、トングを手に持ったまま固まっている。それ、下げようか?


「前田くんよりたちが悪いって言ったんです。見た目を女性に寄せて、相手の警戒心を解き、安心させた所でオスを出してくる。童貞で、常に薄ら笑いを浮かべて近付いてくる前田くんよりたちが悪いと言ったんです」


 ………………え? 俺?


「えー! それちょっと酷くないっすかあ? 確かに兄貴は童貞で、隙あらば変な妄想ばっかりしてるけどお、俺は違うからね! 出す時はちゃんと最初っからオス出すし!」


「え?! 俺、今両方から攻撃されてる?! なんで?! 俺関係ないじゃん! それに、常に薄ら笑いなんか浮かべてないし、隙あらば変な妄想なんてしてないよ!」


 なんなんだよこいつら……! 言い合いしながらさり気なく俺の事をディスるなんて! え? 嫌いなんか? 二人とも俺の事嫌いなの?


「あらぁ、でも可愛くっていいじゃない♪ なんにも知らない方が育て甲斐があって」


 れ、麗香さん……! 女神か? でもちょっと発言がアレだな……。麗香さんって、こんなほんわかした雰囲気だけど、結構過激なタイプなのかも。


「お母さん! もう! 何言ってるの!」


 そうだ乙成。お前だけがこのメンバーの中で唯一の良心なんだ。まともな事だけ言っていてくれ。


「あいりも付き合う人は、従順な人にしなさいね? 自分勝手な人はダメよ? 自分好みにカスタマイズするのよ♪」


 そ、その結果が、美作さんなのか……? カスタマイズされた結果、あんな感じになってしまったというのか……? 俺は、とんでもない勘違いをしていたのかもしれない。一番ヤバい人なのは、もしかして麗香さんなのでは?


「むむう……確かに私も、まろ様を育成しながら色んなまろ様の一面を見たいとは思っているけど……あ! そういえば前田さん! 先日の箱イベ以降、新たにお出かけモードで見れるリアクションが追加されたんですよ!これ、蟹麿語録にも追加しておきますねっ! 今回も一部ボイスがないので、前田さんよろしくお願いします!!!」


「お、おう……」


 なんか混沌としてきたぞ……。これ、どう収拾つけるんだろ?


「とにかく君達兄弟は、やはりあいりと親しくするのは……」


「あ、そういえばこうちゃん、今日まだ、飲んでなかったわよね?」


「え"」


 麗香さんが「お茶」というワードを出した瞬間、美作さんの口から、今まで聞いた事のない声が漏れた。それと同時に、顔も引きつっている。


 そんな美作さんなどお構い無しに、麗香さんは鞄からおもむろに水筒を取り出した。


「こうちゃんの為に特別に煎じたお茶よ? 最近疲れてるみたいだから。さ、どうぞ♪」


 見るからに毒々しい色した液体を水筒のコップに注ぎ込む麗香さん。開けた瞬間から異様な匂いまで漂っている。


「…………」


 その後の美作さんは、とても見るに耐えなかった。あの毒を飲むやいなや、みるみる青ざめていき、フラフラになりながらトイレへ向かっていった。麗香さんと言えば、


「あらぁ? 調合、間違えちゃったかな?」


 などと恐ろしい事を言いながらケロっとしていた。お茶って調合するもんじゃなくね? そういえば前に乙成も、麗香さんに貰った貧血に効くお茶を貰って倒れたんだっけ……。一体原材料何使ってんの?


 かくして、麗香さんの突如としたお茶攻撃により、混沌とした焼き肉大会は幕を閉じたのだった。


 


 

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