第110話焼き肉大会
こんな筈じゃなかった。今俺の目の前には美味そうな焼き肉達。早くも網に焼かれて、見ているだけで腹が鳴る。
違うんだよ、焼き肉は好きだよ? こんな機会でもなければ良い肉を食う事なんてないんだから。でもさ、違うんだよ。今日じゃねえんだよ……。
「前田さん、お腹空いてないんですか?」
「そうだよ兄貴! 早く食べないとなくなっちゃうよ?」
「ふふ、まだまだ注文するから、たくさん食べてね?」
俺が一世一代の勝負に出ようって日に、何故か決まった焼き肉大会。いや、パーティか? どっちでもいいや。俺の思いとは裏腹に、網の上の焼き肉達はみるみる内にみんなの口へと吸い込まれていく。
最初こそ気まずそうな感じで対面した乙成とリンであったが、店に入ってものの数分ですっかり仲直りしてしまった。そして今は、仲良く並んで焼き肉をバンバン焼いている。目の前の席にはニコニコ顔の麗香さん。肩からストールを羽織って、焼き肉屋の雰囲気には似合わないくらいに優雅な佇まいだ。
「美作さんはどうしたんですか?」
「こうちゃんね、まだ仕事が終わってなかったのよ〜でも、今向かってるみたい」
「ねえ兄貴、こうちゃんって誰?」
まだ美作さんに会った事のないリンは、呑気な顔して麗香さんと俺を交互に見ている。
「美作さんは麗香さんの恋人で……ちょっと様子のおかしい人……」
俺は麗香さん達に聞こえない様に、コソッとリンに耳打ちした。リンはリンで、俺がそう説明しても頭に「?」を浮かべていたが。
「すみません遅くなりました」
俺達がコソコソ話をしていたまさにその時、美作さんが個室の引き戸をガラッと開けて入って来た。
「おお〜この人が
「おい! こらリン!! 失礼だぞ?!」
美作さんの目が、一瞬ギロリとリンを見据える。立ったままの体勢で見下す様な感じだから、底しれぬ恐怖を感じる。どうしよ……リン、殺されたりしないかな?
「……どうも」
あれ? 別にそこまで怒ってない? こんなに乙成にべったりくっついて、仲良く並んで焼き肉を焼いてる姿なんて見たら、美作さん絶対怒ると思ったんだけどな。
え、まさか気付いてない? リンが男だって。前に弟がいるって言わなかったっけ? 忘れてるとか?
「こうちゃん、この子、あいりのお友達のリンちゃんよ。とっても可愛い子よね♪」
「よろしくお願いしまーす!」
あ、俺がなんて言って紹介しようか考えてる間に、麗香さんがしれっとリンを紹介してしまった。てか、その紹介だとリンが男だって分かんないじゃん。これ、バレたらやばいのでは……?
「……どうも」
口数少なめに挨拶をする美作さん。リンみたいなタイプの人種、嫌いそうだもんな。全く、いい大人のくせに、ちょっとは気を使って感じ良くしろよ! 見ててなんかハラハラするわ。
こうして、なんとも変な感じの食事会のメンバーが出揃った。俺の向かい側には、例によって例の如く美作さんが座る。なんか、本当にこの人といつもセットにされている気がする。なんで?
「前田くん、これ焼けてますよ」
「はい……ありがとうございます」
「ところで、前田くんって肉は食べられる人でしたっけ?」
え。急に何。そんな話、今までした事ないじゃん。
「いや、普通に食べますよ?」
「そうだったんですね。てっきり宗教上の理由で、肉は食べない主義かと」
「え?」
「え?」
…………………………
……………………………………
いやなんだよ!?!? え? じゃねえって! 怖い。この人怖いんだけど?! 俺、肉が食べられないとか言った事もないのに……。知らない間に美作さんの中の記憶がねじ曲がってるの? てか、この前会った時は普通に会話出来てたじゃん。なんでこんなぎこちなくなるの?? 人見知り? 会う度にはじめましてな気分になる親戚の子供かよ。
「ところで前田くん、隣の方は誰ですか? 前田くんの恋人なら願ったり叶ったりなのですが」
ところでという切り替えには無理があると思うのだが、美作さんの興味はリンに向いたらしい。さっきも自己紹介してたじゃん……寝てた?
「あ、こいつはリンで、俺の……
俺の発言に、美作さんの動きが止まる。トングで掴んでいた肉を落とす勢いで。
「……………………」
「あの、美作……さん?」
女子三人(?)でわちゃわちゃやっている中、永遠とも思える程長い時間、美作さんの動きが止まる。俺と美作さんだけ別次元にいるのかと言うくらい、乙成達は俺達を見向きもしない。た、助けて……なんで俺が美作さんのお守りなの?
「前田くん」
ハッとしてこちらに目を向ける美作さん。ようやく処理か追い付いた様だ。
「は、はい……なんでしょう?」
「君達は一体、何を企んでいるのですか?」
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