第106話前田の受難 その2
月曜日だ。大抵の人にとっては憂鬱な気分で始まる一週間の最初の日。
それは俺にとっても例外ではない。もっとも、俺が憂鬱なのは月曜日だからだけじゃない。いや、ちょっとは月曜日のせいもある。月曜日は最悪だ。
先日の美作さんの言葉。乙成が泣いて欲しくないってどういう意味なんだ?? あの二人に昔何かあったとか……? 確かに美作さんはヤバい人だけど、流石に麗香さんの彼氏だしな……色恋の類ではないだろう。
え? ないよな? 血は繋がってないから犯罪にはならないけど、倫理観的にどうなんだ? いや、あの人に倫理観とかないか。ヤバい人だもん。いやいや流石にないわ。いくら美作さんが狂ってても、乙成との関係値を見るに、そんな感じではない。ないと信じたい。
俺の酷い妄想のせいで、余計に月曜日が憂鬱になった。俺の溢れ出る想像力が、どこまでも親密な様子の二人を生み出してしまうのでこれ以上考えるのを辞めにした。妄想だけなら誰にも負けない自信がある。なんてったって童貞だからな。分からない事は全て妄想で補えばいいのだ。
俺が酷い妄想に取り憑かれている内に、なんやかんやで昼休みになった。妄想に取り憑かれつつも、それなりに仕事はこなした。隣で滝口さんは消しゴムはんこ第2号の試作に取り掛かっていて、あと少しで完成というタイミングで朝霧さんにブチギレられていた。俺も大概だが、あの人はマジで何をしに会社に来ているんだ?
「あ! 前田さん、お疲れさまですー」
俺がいつもの様に追い出し部屋へ向かおうと廊下に出たタイミングで、給湯室から弁当を温め終えた乙成が出てきた。
「お疲れさま」
短く挨拶を済ませて、一緒に追い出し部屋まで向かう。この頃当たり前になったいつもの光景だ。乙成は月曜日の憂鬱なんて関係ないのか、相変わらずのニコニコ顔で弁当箱を大事そうに抱えている。そんな姿を微笑ましいと感じながらも、やはり先日の美作さんの姿が浮かんで気分が晴れない。
なんでこんなにモヤモヤするのだろうか。美作さんと乙成が昔からの付き合いなのは分かってる事なのに。
いや、だからこそモヤモヤするのか。自分の知らない乙成との過去があるから?
「いやあ、昨日はイベントに向けてアイテム収集したりで忙しくって、お弁当作る余裕ないかと思いました!」
乙成は一人ハイテンションで、机の上に弁当箱を広げている。イベントとは言うまでもなく、天網恢恢乙女綺譚の話だろう。最近じゃ、俺が蟹麿関連の情報を全て網羅していると思って、こうやって急に脈絡のないオタクトークを急にぶっ込んでくる様になった。
まぁ確かに、乙成の影響もあってだいぶ詳しくはなったと思うが。俺のスマホも、何故か最近乙女ゲーム関連の記事ばかり表示してくる気がする。その度に、俺のスマホが「お前、こんなんも好きなんやろ?」と言ってる様な気がしてなんか釈然としない。
「ああー、箱イベ? だっけ?」
「そうなんですよ!!! 今回のイベントはさるかに合戦のメンバー達なのです! 久しぶりにピックアップされたからもう嬉しくって!!! もう今から走る準備しておかないとなんで、忙しいんですよお!!」
楽しそうでなによりな乙成。この楽しそうな乙成を見ていると、とても過去に何かあった様には思えない。随分前に、人間関係が上手くいかなかったという様な話は聞いたが、あの時は俺の失言により喧嘩になってしまったから詳しくは聞けなかったのだ。
今なら話してくれるだろうか? それとも、また前みたいに嫌な気分にさせてしまう?
「あ、そういえば! 昨日母から連絡があって、土曜日に光太郎さんと会ったんですよね?」
「え?! 確かに会ったけど! ……てことは、二人で買い物したって事も聞いた?」
「ええ……まあ」
ちょっと気まずそうにうなずく乙成。この反応を見るに、ホワイトデーのお返しを買いに行った事まで全て筒抜けなのだろう。ったく!! 美作さんは何でもかんでも麗香さんに報告するなよな?! 折角当日に驚かせようと思っていたのに、これじゃ台無しじゃないか!!
「光太郎さん、なんでも母に言っちゃうんです……母も私になんでも言うし……あの……それで、私ちゃんと言ってなかったんですけど、お返しが欲しくてチョコを前田さんにあげた訳じゃないですからね?! 日頃の感謝を伝えたくって贈り物をしただけなので……」
これは俺がお返しに迷っていた事も話が通ってしまっているな? それで乙成が申し訳なく思っている、と。美作さん、あんたは本当にいい加減にした方が良い。
「もしかして、俺がチョコ貰って困ってるって思ってない? 全然そんな事ないって! 俺も乙成だからあげたいって思ってる訳で……!」
「そ、そうなんですか……? てっきり余計な手間を取らせてしまったかな、なんて思ってしまったんですけど……」
「た、確かに不慣れだからちょっと迷ったりはしてるけども……手間だなんて思わないから!」
よっぽど不安だったのか、俺の言葉を聞いてパッと表情が明るくなる乙成。そんな心配までさせた美作さんの罪は重い。本当に重い。
「よ、よかったぁ。私、バレンタインにはちょっとした
トラウマ……? 美作さんが心配? これってこの前美作さんが言っていた事と関係が……?
「ねえ、乙成。昔何があったの?」
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