第99話ついに夢が叶った乙成〜アンデッドな彼女番外編〜


「やっと姿を現したな。この地を穢す、悪の権化め」



 俺達の目の前に現れたのは、天網恢恢乙女綺譚のキャラクター達。


 兜々良蟹麿つづらかにまろ


 猿島祐天さしまゆうてん


 栗藤栗花落くりふじつゆり


 蘭蜂朗あららぎはちろう


 来楽臼千弦くらうすちづる



「うそ……?! まろ様!まろ様がなんでここに?!」


 5人は、今にも飛びかかってきそうな気迫を漂わせてこちらを睨んでいる。見るからに俺達を狩るつもりだ。そんな状況だというのに、乙成ときたら実写? の蟹麿達を前に大興奮している。

 しっかし、マジで頭身凄いな。顔ちっさ。今まで絵でしか見てなかったからなんとも思わなかったけど、こうして並んでしまうと世界観がブレるレベルだ。俺達がちんちくりん過ぎて、デフォルメされたキャラに見える。



「この穢れ……口が聞けるのか?」


「蟹麿ーこいつらがキーパーの女の子が言ってた、歪みの正体?」


 祐天がちょっと面倒くさそうに蟹麿の方を見ながら口を開く。その顔を横目でうっとおしそうに睨む蟹麿。ヤバい。なんか俺まで興奮してきた。芸能人に会う気持ちって、こんな感じなのかな?


「恐らく、な。それにしても、人の見かけをしているなんで聞いていないぞ」


「蟹麿、僕が作った、ちゃんと持ってる?」


 蟹麿の後ろから蜂朗が顔を覗かせて質問をする。蜂蜜の様な金色の瞳が印象的な少年だ。少しムスッとしているのも、原作通り。やっぱりこの子は生意気なショタ枠なんだな。


「案ずるな蜂朗。お前の作ってくれた改良版、蟹麿デラックスふゅーちゃりんぐ蜂朗炸裂弾はこの通り、ちゃんと持っているぞ」


  だ、だっせ〜〜〜〜。なんだよ蟹麿デラックスふゅーちゃりんぐ蜂朗炸裂弾って。でも今のでなんとなく、爆弾的な何かなのは理解した。案外、この安直なネーミングセンスに救われたのか?



「前田さん! 気を付けてください! あの炸裂弾、原作にも出てきました! 相手の体にくっついて、時間差で爆発するものです! 元はまろ様が祐天を懲らしめる為に開発した物なのですが、毒や薬の知識が豊富な蜂朗が改良型を作ってくれたんです! 作中でもあの二人、結構仲良いんですよ? ちなみに、蜂朗はショタって言われていますが、子供っぽい見た目なだけで公式の年齢は16歳なんです! 主人公ちゃんの年齢設定は19歳なので少しお姉さんって感じなんですよね! 子供扱いされるのが嫌いで、このメンバーの中でもダントツで常識人で、メインストーリーだとみんなをまとめたりと、意外と頼りになる一面が……」


「いや、いいから! こんな時に長々とキャラの説明はいらん! とにかく、まともにあれを食らったらヤバいって事だな!」



 オタク特有の謎の語りを遮って、俺達も5人の気迫に負けまいと構える姿勢を取った。っていっても、俺達には武器も防具も何もない。この状況、どう切り抜ける?



「あー! よく見たらあの穢れ、片方女の子じゃん! 俺やだよお! 女の子に手をあげるのは反対! 絶対ダメっ!」


「栗花落……あれはおなごじゃなくて、穢れだぞ?」


「でもダメったらダメだってぇ! 暴力反対ー!」


 栗藤栗花落……つゆりんとファンの間で呼ばれているあいつは、あざとい系の腹黒男だ。栗色の淡いふわふわの髪で、毛先はピンク色に染めている。自称女の子の理解者である。そんな彼を、蟹麿は苛ついた様な顔で見ている。ちょっとウザいって思ってんのか?


「ううむ……流石つゆりんですねぇ。この状況下でも、彼は普段のテンションを曲げません……! はあ……この姿、つゆりん推しの四月一日わたぬきさんに見せてあげたかった……! 絶対奇声をあげてましたよ!」


「何感心してんだよ……」


「栗花落殿、心配は無用。この、来楽臼千弦。自らの命に変えても皆の事を護ると誓おう」


「おーいいぞお千弦ー! 肉の壁となれー!」


 後ろからヌッと現れたのは、縁の下の力持ち、仁義と花を愛する心優しき男、来楽臼千弦だ。身長は190cmを有に超える、帰化した外国人の設定。心優しい性格とは裏腹に、全身に入れ墨が入っているのだが、実はあれも過去に仲間を護る為に負った呪いだと乙成が前に言っていた。俺はこのメンバーなら、千弦が一番好き。


 そんな千弦に、近くの岩に腰掛けて早くも休憩中の祐天が声援を送る。こいつも原作通りだな。なんか滝口さんっぽいんだよなぁ。ものぐさな所が似ている。


「前置きは終わりだ。この世界を歪める穢れめ、我らが成敗してくれる!」


 ついに向こうが、戦闘モードに入った様だ。


「お、おい……どうするよ?! 乙成! まともに戦って勝てる相手じゃないぞ?!」


「……あ! 見てください前田さん! 前田さんの手から何か出てます!」


「へ?」


 乙成に言われて、俺は自分の右手に目をやった。



 俺の右手からボタボタと滴り落ちる不気味な黒い液体……。粘度が強くてまるでヘドロの様だ。そしてこのヘドロが落ちた地面をよく見ると、先程まで元気いっぱいだった草花が一瞬にして枯れている。


 え……キモ……なにこれ?


「前田さん! それを使えば、なんとかやり過ごせるかもしれません!」


 こ、これが、俺がゾンビになった事で手に入れた力……?!


「よし……これなら!」


 俺は右手に発現した能力を使って、目の前の彼らと戦う覚悟を決めた。


「前田さん! 頑張ってください! でもまろ様の顔は狙わないでくださいね! あくまで逃げる為の時間稼ぎです! 私も助太刀いたします!」


「おう! じゃいくぜ!!!!」


 


 

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