第92話チョコはどれ?

「ちょっと! なんで貰ったチョコを忘れるわけ?!」


 チョコの山を見ながら静止している俺に向かって、リンは呆れた様に言い放った。


「き、昨日までは覚えてたんだ! でもここに来たら……! ここにあるやつ全部、なんかピンク色してるし!! そう言うお前だって分かるのか?! それなら貰った記憶のないチョコが紛れてたら分かるだろ?!」


「分母が違うから! 俺は大量に貰ってるから覚えてなくても仕方ないの!! 誰から貰ったかだけ分かってればいいの!!!」


 痛い所を突かれたのか、リンも苦し紛れの言い訳をする。全く、俺達兄弟はなんて薄情なんだ。多分これは親父に似たな、親父もそういう所あるし。



「まぁいい。とにかくこの中に乙成からのチョコがある事は確実なんだ」


「でも、分からないんでしょ? どうやって見つけるの?」


「乙成から貰ったチョコには、メッセージカードが入っているらしい。それを見つけだす。全部中身を開けてな!」


 そう、分からなければ開ければいいのだ。ここにある物達をな!!!



「え……めんど……」


「リン、お前にも手伝ってもらうからな! まずは選別作業だ。乙成から貰ったチョコの包み紙はピンクだ。ここでピンク以外のチョコは除外、ついでに高級ブランドのチョコもだ。手作りで、ピンク色。これだけに絞って中身を確認する! かかれ!!!」


 俺の掛け声を共に、俺達は一斉に作業に取り掛かる。とりあえず高級ブランドのチョコと、ピンク色以外のチョコは分ける事が出来た。


 問題はここからだ。選別しても余ったチョコ達の数に俺は軽い目眩を覚える。なんで揃いも揃って、みんなピンク色にするんだよ? バレンタインと言えば、ピンクと赤なんて、短絡的過ぎる。もっと捻りを入れてこい。



「まずはこれを開けるか……」


 そう言って、俺が開けた一個目はハズレだった。メッセージカードは入っておらず、中にはハートの形の生チョコが入っている。見ただけでハズレと分かるのは、チョコの上に白い粉砂糖で「リンちゃん好き」と文字が書かれていたからだ。


「ハズレ……」


「へぇーそれ結構美味しそうじゃん! 誰からか分かんないけど」


 俺が開封していると、横からリンが覗き込んできて、生チョコをひと粒取ると口に放り込んだ。最後の一言にリンの腹黒さが見え隠れしている様で、兄としてちょっと複雑だ。


 その後も、こんな感じで単調な作業が続く。ここでも俺の地味な能力が開花して、箱を開けて中身を確認するスピードがリンと比べて段違いな事に、ほんのちょっとだけ得意になっている俺がいる。俺、今の仕事クビになったらこういう仕事探そうかな? 箱の中身を確認してベルトコンベアに流す仕事とか……そこでなら俺、天下獲れる気がする。


「さてさて〜次は……これにしよっかなあ」


 リンもなんだかんだ言って楽しそうに箱を開けている。次にリンが手に取った箱は、ピンク色で可憐な白い花が描かれた包みの箱だ。そういえば乙成から貰ったチョコも、何か描かれていたような? これは期待出来る。



 ガサガサと乱暴に包み紙を開けるリン。プレゼントを貰ったアメリカの子供みたいに包み紙をビリビリにすると、中からしっかりとした木製の箱が姿を現した。


「それ、桐箱? 外側から想像つかないくらいしっかりしたやつだな」


「んーこんなのくれる子、いたっけかなあ?」


 そう言って、リンが桐箱の蓋を開けると、中から出てきたのは黒い髪の毛と怪しい形をしたチョコ、それに血文字の様な不気味な書体で書かれたメッセージカードだった。


 



 "あなたといつも一緒に居られる様に、願いを込めました。この髪の毛は私です。片時も離れられない様にしてあげる"


 



「う、うわあああああああ!」


 思わずメッセージカードごと桐箱を蹴っ飛ばしてしまった。転がったチョコをよく見ると、爪の様な物が入っているように見える。



「お前、これのどこが厳選したって?」


「………………これ、あいりんからじゃない?」



「そんなわけあるか!!!!!!!」



「うっわ〜マジか〜。これ、誰からだろ? 受け取った時、様子のおかしい子はいなかったんだけどな……ねぇ、マジであいりんからじゃない? ほら、あいりん黒髪だし、ゾンビじゃん」


 

「それだけはあり得ない。てか、これは最早ゾンビとは関係ない」


 俺に完全否定され、ちょっとシュンとしたリンは、そっと桐箱を部屋の隅に置いた。


「……とりあえず! これではないね!! 兄貴、次行こ!」


 そっと桐箱を置いてこちらに戻ってきたリンの顔は青ざめている。リンには申し訳ないが、今はイカれた女の事より乙成の事だ。話はその後聞いてやろう。



「お、これは?」



 そろそろチョコ開封も飽きてきた頃、俺が何気なく手に取ったチョコに既視感を覚えた。


 この手に持った時の感触……! 妙にしっくりくる。箱を持った時の感触が、昨日何度も手にとって神棚に戻すを繰り返していた時のそれを合致した様に感じた。


 これは期待出来る……!


 俺はリンとは違い、セロハンテープの跡すら残さない程慎重に開けていく。そして中から現れたのは、箱の天面が透明になっていて中身が見えるタイプの可愛らしい箱。そこには彼女が言っていた通り、メッセージカードが添えられている。



「これだああああああ!!!」



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