第93話……え?

「これだあああああああ!」



 俺はやっと見つける事が出来た喜びで、つい大きな声を出してしまった。隣でリンも拍手で喜んでくれている。


「兄貴、良かったね!! てか、あいりんからのチョコ美味しそう!! 後で一個ちょーだい!」


「ふっふっふ……仕方ないな。一個だけだぞ?」


 箱から見える乙成からのチョコは、売り物と見紛う程ちゃんとデコレーションされたチョコだった。ひと粒ひと粒に可愛らしい模様が描かれており、食べるのがもったいない。


 チョコももちろん気になる所だが、問題はこっち手紙だ。名刺サイズの小さいピンクのメッセージカード。これまた同じサイズの便箋に入っており、手書きで「あいりより」と名前が書かれている。


「あいりんって、字可愛いね〜。ねね、なんて書いてあるの?」


「こ、これは俺が一人で読むからお前はダメだ!」


「は?! ここまで兄貴に付き合ったのに?! いいじゃん! 俺、イカれた女の子とこれからデートしなきゃいけないんだよ? どうすんの? これが俺に会う最後になったら! 兄貴絶対に後悔するって! リンの願い叶えてあげたかったな……って!!!!」


 

 う……無茶苦茶な言い分だが、確かにこれっきりリンに会うのが最後になってしまったら、とても目覚めが悪い。てか、なんとか相手を特定して、事件になる前に対処して欲しい所だ。



「……わかったよ。でも何が書いてあっても、冷やかすのは無しな! それに、俺から見せてもらったって事も言うなよ!!」


「わかってるって〜」


 軽い感じで調子の良い返事をするリン。こっちは先程からドキドキして落ち着かないというのにいい気なものだ。


 なんとなくだけど、これを開けたら今までの関係と大きく変わってしまう気がする。期待もあるけど、それ以上に不安が大きい。これで決まってしまうのだ。


 俺達の今後が……。友達でいるのか、それとも、もっと上の段階へ進むのか……


 正直、どっちへ転んでも少しモヤモヤする結果になる事だろう。


 友達のままでいた場合、現状の楽しいままでずっと居られる。でもそんな日常に、いつかは俺が限界がきてしまうだろう。


 だからといって、次の段階へと進むとなると、今度は少し恐怖を感じる。俺は女の子と付き合った事もないし、どう立ち回ったらいいのか分からないからだ。

 結果として、乙成を傷付けてしまう……そんな様な気がして怖い。



「ねぇ、早く開けてよ!」


「今心の準備をしてたんだよ!!!」


 俺が考え込んでいる所に、リンがしびれを切らして口をはさんできた。こっちは真剣に考えてるというのに……! 童貞の気持ちも考えろよ!


「もぉー! そんなんジッと見てても何も変わんないじゃん! あいりんなら、変な事は絶対に書かないよ!」


「それも……そうか」


 確かにリンの言う通りだ。乙成なら、おかしな言葉は絶対に書かないだろう。そう思うと、少し元気が出てきた。


「よ、よし……じゃあ開けるぞ……!」



 名刺サイズの便箋に貼られていたシールをゆっくり剥がす。まだ中身を見たくないから裏返しにして、中に入っているメッセージカードをゆっくりと取り出す。


 少し硬めの、紙の表面に凹凸のあるメッセージカードだ。指先に柔らかい紙のぬくもりが伝わる。色は便箋とお揃いの薄いピンクで、カードのフチの角は丸い。指を切らない様にする為の配慮だな。この手のカードって、分厚いから大丈夫だろうと勢いよく触ると、大抵ザクッといったりなんかして……


「兄貴、心の声はもういいから早くしてよ」



 こいつ……! やはり俺の声が聞こえているのか?!


 なんか前もこんな事あったよな、油断も隙もない奴だぜ。



 ふぅーーーーーーーーーーーーーー



 俺は、リンの飽き飽きした顔を横目で確認すると、一度深く呼吸を整えた。相変わらず俺の心臓はバクバクして落ち着かないが、もうこれ以上引き伸ばすと、いい加減リンに殴られそうだからな。俺はついに覚悟を決めた。



「……いくぞ!!!!」



 ペラッ



 



 "結婚式、楽しみにしてるね! あいりより"






「「…………え?」」



 ピンクのメッセージカードに丸い文字で書かれた結婚式という単語。予想の数段上をいく乙成からのメッセージに、俺とリンはただただカードを凝視する事しか出来なかった。



 

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