第90話チョコ奪還作戦

 やらかした。人生初の女の子から貰ったバレンタインのチョコ。しかもメッセージカード付き。こんなレアリティの高い物を、俺は何処かへやってしまった。



 今ここにあるのは昨日の晩にリンが持ってきた、俺からしたらどこの馬の骨とも分からぬ女の子がリンにプレゼントしたチョコ達だ。大変失礼だが、これらは俺にとってはなんの価値もない。旅の路銀にでもなればいいかな? くらいの代物だ。あいにくだが、この世界では、他人が作ったチョコを換金する様な仕組みはまだ確立されていないと思うので、実質これらにアイテムとしての価値は無いに等しいだろう。



 でも乙成のチョコは違う。アイテム欄を開いたら、「乙成からのチョコ ☆☆☆☆」くらいにはなる代物だと俺は思っている。そんなレアリティの高いチョコを、俺は失くした。


 いや、失くすなんて事はあり得ない。昨日から一歩も外に出てないわけだし。そうなると導き出せる答えはただ一つ。



 リンだ。



 リンが今朝帰る時に、間違えて乙成のチョコも一緒に持って帰ってしまったのだ。それ以外考えられない。俺、探偵に向いてるんじゃね? こんな一瞬で答えを導き出せるなんて。


 てなわけで、俺はすぐさまリンに電話をかけた。



 …………


 ………………



 ……………………出ない。



 電話は繋がるものの、肝心のリンが電話に出ない。俺は、電話を切ってリンにメッセージを送った。


 ま「どこにいる?」


 スポン


 ま「昨日のチョコ、まだ食べるな」


 スポン


 ま「そして電話に出ろ」


 スポン……!



 これでよし。後はリンの返事を待つだけだ。



 ………………6時間後。



 未だにリンからの連絡はない。この6時間、俺は胃がキリキリして落ち着かなかった。

 もし、リンが先に乙成からのプレゼントを開けたら? そして中のメッセージカードを俺より先に読んじゃったら? 考えただけで吐きそうだ。それは俺がなんとしても一番最初に見なくてはならないやつだ! 絶対にリンに先を越させない!


 それに、リンはあれだけ大量のチョコを貰っていたのだ。いちいち誰からのプレゼントなのか、なんて見ちゃいない可能性がある。読まれずに捨てられ……なんて事もあり得るから、なんとしても取り戻さなければならない。


 ポコン


 間抜けな音が俺のスマホから聞こえた。リンから返事が来たのだ!俺は急いでメッセージを確認すると、リンのアイコンの隣に①と表示されていた。

 ちなみにこのアイコンに使われてるイラストは、配信の方でのリンのファンであるイラストレーターの方が描いてくれたらしい。可愛くデフォルメされたアニメタッチのリンのイラスト。こんなものまで描いて貰えるなんて、リンって地味に凄いんだな。


 リンちゃん「兄貴ごめん」


 リンちゃん「今日デートなの」


 リンちゃん「帰りは遅いから、用事あるなら明日うちに来て!」


 デートとはつまり、リンのホワイトデーのという事だな。まだ一ヶ月くらいあるのに、もうお返しをしているのか……。本当に、刺されるのと病気にだけは気を付けて欲しい。


 ま「助かる! 明日仕事終わりに向かうから、絶対にチョコ食べるなよ?」


 リンちゃん「なんそれ笑 チョコはまだ食べないから明日一緒に食べよーね」


 可愛いスタンプを送って寄越して、リンとの会話は終了した。


 これで……これでひと安心だ。後は何事もなく、乙成のチョコをリンの家から引き取ってくれば、万事解決だ!



 ふぅ、落ち着いたらまた眠くなってきたな……昼寝でもするか。


 こうして俺は、なんとかリンとの予定をつけて、乙成チョコ奪還作戦の手筈を整える事が出来た。



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