第57話ヵ″─」レス″ノヾ─レよイ廴聿全ナょぉ店ナニ″ょ

「イ可を食欠ゐますカゝ?」


「ゑ丶)ナニぬ、キも一糸者レニ食欠ωτ″レヽレヽ?」


 これは決して文字化けなどではない。外国語でもない。俺の目の前のバチグロギャルが発している言葉である。バチグロギャルは酒のメニューを手に、カウンターの向こうから俺達に何かを伝えようとしている。


 ここは都内のガールズバー。例によって例のごとく、俺は滝口さんからの招集で、このガールズバーにやってきたのだ。


「……滝口さん、この人なんて言ってるんです?」


 俺はバチグロギャルに悟られない様にこっそり滝口さんに耳打ちした。


「え? わっかんねぇけど、こういう頭悪そうな話し方する子っていいよな! オレはビールね!」


「あ、じゃあ俺も……」


「丶)ょ─カゝレヽ!」


 なんかよく分かんないけれど、一応注文は通った様だ。俺は安心して丸椅子の短い背もたれに体を預ける。


 朝霧さんと別れたあと、滝口さんからの誘いでここにやってきた。夕飯がてら二人で牛丼を食べて、開店と同時に入店したという訳だ。

 昨日朝霧さんとの一件があった後だというのに、滝口さんはいつも通りだ。いつも通り、こういう女の子がいる店で楽しそうに女の子を吟味している。

 

 ここは様々なタイプの女の子と気軽にお喋りしながら酒が飲めるガールズバー。最近までコンカフェにハマっていた筈の滝口さんだが、なんでまたガールズバーなんかに?

 ガールズバー、コンカフェ、キャバクラ、俺にはこの辺りの違いはいまいちよく分からんが、隣に座られたりしないだけ、ガールズバーは健全な店って感じがする。


「あー! 滝口じゃん! 久しぶりー!」


「まいにゃん! 連絡来たから会いに来たよ! コンカフェ辞めちゃったんしょ?」


 まいにゃん……? あぁ、この子は滝口さんがハマっていたコンカフェの店員の子だったと思う。見るからに今時の、ちょっと地雷系? みたいな子だ。前の店では小悪魔をイメージしたフリフリの恰好をしていた。今は私服みたいだけど、これも黒くてフリフリしている。顔に似合わずバチバチに開けたピアスが、この子の闇を表している様でちょっと怖い。たしか二十歳の大学生だった筈だ。


「ガチ恋の客がウザくてさ! チェキ撮るときおっぱい触ろうとするから拒否ったら、オーナーも巻き込んで揉めたから辞めたの! てか滝口、まいの事指名してよ? コンカフェの時よりバック少ないからマジ金ないの!」


「え! ここ指名出来んの? まいにゃんが言うならするってぇ」


 割と口の悪いまいにゃんと、デレデレしている滝口さん。二十歳の子に「滝口」と呼び捨てにされて喜んでいるなんて、情けない事この上ないが、本人が嬉しそうならいいのか。


「ー⊂″ぅξ″」


 さっきのバチグロギャルが、俺と滝口さんの分のビールを持って戻ってきた。この子が話す度になんかゾワゾワするんだよな……マジでなんて言ってるか分からん。


「あ! るりたぬきちゃんありがとうー! 滝口! この子、るりたぬきちゃん! 古き良き平成のギャルに憧れてるんだってー! 週6で日サロ行ってるらしーよー」


「ょзι<ぉ原頁レヽιます」


「よろしくお願いしますって!」


 るりたぬきちゃんは、見た目に反して意外と真面目な子らしい。でもいちいちまいにゃんの通訳を通さないと意味が分からないので、出来ればこの場から立ち去って欲しい所だ。


「てか、ここの店もかわいい子多いよなぁ」


 滝口さんがしげしげと辺りを見渡す。カウンターのみで構成された店の作りだが、結構広さがある為女の子の数も多い。表向きはバーだから色んな酒が置いてあるみたいだが、みんな酒なんかより女の子と話す事に夢中だ。今も、奥の方の席ではなにやら歓声が上がっている。


「は? 滝口それ浮気じゃん。推し変したらマジでコロスから」


 まいにゃんが真顔で物騒な事を口にした所で、俺達はまいにゃんとるりたぬきちゃんにも酒を奢って、四人で乾杯する事にした。


「てか滝口さん、なんか話があるから呼び出したんじゃなかったんすか?」


 すっかり忘れていたが、滝口さんから「話がある」と言われたんで今日会う事になったんだ。昨日の今日だから、てっきり朝霧さんとの事を話したいのかと思ったが、こんな場所だとゆっくり話も出来ない。


「お前、朝霧さんをどう思う?」


「は?」


 あれ? この下りは前に朝霧さんともやったな……? まさか……な。


「あの人、本気で怒ってたな。オレが騙そうとしたから」


「まぁ、そりゃあ怒るでしょうね……」


「オレ、昨日ではっきり分かったんだ」


 滝口さんは、いつになく真剣な顔つきで持っていたグラスを傾け、一気にビールを飲み干す。俺はこの後に続く言葉が嫌な予感しかしなくて逃げ出したかった。


「あの人に技を決められた時、オレの中で何かが変わった。あんなに真剣に取り合ってくれた人は今までいなかったんだ。そしてとてつもなく今後悔している。なんでもっと早く、自分の気持ちに気が付かなかったんだって」


「後悔している人が、ガールズバーでこんな話しないと思いますよ? それに、まいにゃんは聞いてて嫌じゃないの? さっき推し変したらコロスとか言ってたけど……」


「あぁ〜、まいは滝口が店でお金を落としてくれればそれで良いから、プライベートなんてどうでもいいんだよね~」


 そう言うと、まいにゃんは肩から下げたポーチから口紅を取り出して塗り直し始めた。小さな手鏡で自分を見る時の顔が、渾身のキメ顔なのがちょっと怖い。


「めっちゃはっきり言うじゃん……滝口さん可哀想……」


「前田、こういう店でガチ恋は御法度だ。こういう所で働いている子はな、男にベタベタされるのにウンザリしている子が多いんだ。オレは健全に、酒を楽しむ為だけにこういった店に足を運ぶ。特にまいにゃんみたいな、酔うと色々とユルくなりそうな子を見ながら酒を飲むのが最高に楽しいんだ」


「いや言い方……! どんな楽しみ方してんだよ……」


 滝口さんが先輩である事も忘れて、思わずツッコんでしまった。


 


「とにかく、だ。オレは昨日の出来事ではっきりとしたんだ。オレは……朝霧さんに惚れてしまった」


 

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