第39話覚醒…?


「さぁ、出来ましたよー! 食べてくださいっ」


 しばらくして、乙成が運んで来たのは小ネギがちらしてある卵粥だった。それを熱々の鍋からお椀によそいでくれて、フーフーしながらスプーンで俺に食べさせようとしてくる。


「ちょ、乙成! 一人で食べられるって!」


「何言ってるんですか! そんな目トロンってさせながら言ったって説得力ないですよ! いいから食べて!」


 えっ、今の俺ってそんなだらしない顔してるの……?


「ぅ熱っっ! 本当大丈夫だから! なんか恥ずかしいし!」


 どうしても俺にフーフーして食べさせたがる乙成からスプーンとお椀をひったくって、俺は熱々のお粥を勢い任せで流し込む。


 熱い……隣で乙成は頬杖をつきながら俺が食べてる姿を見てるし……しかし熱いけど美味い。思えばここ数日、碌な物を食べていなかった。


 インスタントの美味しくないお粥に、実家から持たされたみかん。ソースをかけるだけで出来るパスタに、そしてみかん。食べる時間もバラバラで、とりあえず胃を満たすだけの食事をしていた。


「前田さん良い食べっぷりですねー。そんなに食欲があるなら、もう大丈夫ですかね!」


 何を呑気な事を言っていやがる。お前が食べさせようとしてくるからだろ。軽く舌が火傷した気もするが、俺はなんとかお粥を全て平らげた。


「ご、ごちそうさまです」


「はいっどういたしまして! さぁ、今度は薬を飲んで寝る!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきまで寝てたから、そんな急に寝れないって……」


 ベッドに座り直そうと、テーブルに手をついて立ち上がろうとした時、急に頭がぐらついて視界が一瞬ボヤけた。


「あ……れ……?」


「前田さん! 大丈夫ですか?!」


 遠くで乙成の声が聞こえた。夜になって熱があがったのだろうか、それとも、今お粥を食べたから……?

 とにかく今の俺の頭は、のぼせる程熱く、意識も朦朧として、ふらつく俺に手を伸ばす乙成の姿もはっきりとは映し出さなかった。


 ま…………さ……ん……


 どこかで声が聞こえる。その声は遠くてよく聞こえないが、意識を集中させれば少しずつ、鮮明になっていく。

 ここはどこだ? さっきまで俺は自分の部屋にいて、乙成がいた。


 そうだ、乙成だ。確かお粥を作ってくれて、それを食べた後、なんかグラグラして倒れそうになったんだ。


 あれ……? その後はどうしたんだっけ?


「ま……だ……さん……前田さん……!」


「乙成……?」


 声が聞こえて、ボヤけた視界が少し戻ってきた。


 目の前には壁。そこに俺は両手をついている。そしてその両手の間には、心配そうに俺を見上げる乙成の姿。


 どうやらここはベッドの上らしい。ベッドの壁際で立膝の姿勢で壁に両手をついて、壁と俺の間に乙成が座り込んでいて……って、これはなんだ?


「あの、前田さん大丈夫ですか? なんだか凄く具合が悪そうです……」


 まだ頭がぼんやりする。視界もぐにゃぐにゃしていて頭が回らない。

 

「あぁ、もう平気……でも、なんで来たわけ?」


 あれ? 今の、俺が喋ったのかな?


「それは……前田さんのお見舞いですよ! きっと風邪で辛いと思ったんで、お手伝いに来たんです!」


「ふぅん……でもさ、男の部屋にいきなり訪ねるなんて、ちょっと無防備過ぎない?」


「え……?」


 ちょっと、何言ってるんだ……? 勝手に言葉が……


「本当に、どうなっても知らないよ?」


 あぁ、これはあれだ。いつもの蟹麿のセリフを言わされてるんだ……それにしても手元に蟹麿全集は無いし、なんでフリ付きでやってるんだろ……


「前田さん……?」



 最後に見えたのは困った様な乙成の顔。視界がぼやけてたから良くは見えなかったけど、なんだか凄く恥ずかしそうだった。



 *****


 朝、カーテンの隙間から漏れる光で目が覚めた。寝ている時に汗をかいたのだろうか、妙に頭がすっきりしていて熱も下がっている。



 むにっ


「ん?」


 寝返りをうって体を仰向けに戻した時、俺の右肩に何かが触れた。


「おはようございます、前田さん」


 そこには俺の隣で寝そべったまま、穏やかな表情でこちらを見る乙成がいた。

 

 

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