第36話男同士の会話


「おまっ!? いつから?!」


「風呂出たから呼びに来たんだ〜そしたら兄貴、なぁんかいい感じの電話してんじゃん? 」


 そう言ってリンはズカズカと俺の部屋に入って来た。驚いたのはその見た目。風呂上がりのリンは昼間とはまるで違う姿だった。


「……お前、男だったんだな」


「なにそれ? 元からそうじゃん! これ、中学の時のジャージ! まだ取ってあったんだね~俺家ではいつもこんな感じだよ? 女装するのは外に出る時だけ♪」


 中学時代のジャージに、変な柄のTシャツ。前髪は鬱陶しいのか、カチューシャをつけている。昼間の濃いメイクはすっかり落とされ、気持ちだけ残った眉毛が元ヤン感を醸し出している。この姿の方が俺は見慣れた姿だ。


「それよりさぁ〜! 今の子誰?! 兄貴女出来たの?! てかさっきの愛の告白みたいなやつなに? 流石に声作りすぎててきついっしょ〜」


 心なしか喋り方まで男臭くなっている気がする。それも陽キャ全開の喋り方だ。


「女って呼び方……! 別に彼女とかじゃないよ……これには事情があってだな……」


「え? まさか兄貴ヤッた? ついに童貞卒業?!」


「バッ……! そんな事してねぇよ! てか、なんで童貞って知ってんの……」


「だって兄貴、昔っからそういう影なかったじゃん? そっかー、まだなんだな〜! ねぇねぇ、シタら感想聞かせてよ! 兄貴のそういうの知りたい!」


 見た目は以前のヤンキー感丸出しだけど、こうやって絡んでくる所は昔とは違うな。いや、もっと昔、本当に小さかった頃、リンはいつも俺にこうやってくっついて絡んできたっけ。


「絶対に教えない! 黙秘する!」


「ズルいよ兄貴! じゃあさ、俺の話教えるからっ」


「聞きたくないわ! てか、ちょっと疑問なんだけど」


「ん? なぁに?」


 いつの間にかリンは俺のベッドに並んで座っている。近くで見るとやっぱり顔が良いなこいつは。


「お前って……その、どっちなの……? し、志向的なやつ……」


「んー? そりゃあもちろん女の子! 意外かもだけどさ、ヤンキーファッションより今の方がモテるんだよねー♪ 警戒心を持たれないって言うのかな? たまに男にも告白されるけどね! そっちについてはノーコメントでっ」


「お、おう……」


 なんか、これ以上聞くのはまだ心の準備が出来ていない。今日だけで弟が妹? になっていたんだ。もう少し時間をおかないと、情報量が多くて胃もたれする。


「それでー? さっきの子の事、ちゃんと聞かせてよぉ〜顔は? 性格は? スタイルは?」


 リンがニヤけながらグイグイ質問をぶつけてくる。眉毛が半分しかないくせに化粧水とかちゃんと使っているのか、肌はきめ細かくてツルンとしているし、男物とは違う甘い香水の様な香りまでする。


「性格は大人しくて……」


 本当は陰の者で


「結構凝り性? 好きな物に真っ直ぐで……」


 乙女ゲームが好きなただの痛いオタクゾンビで


「スタイルは……まぁ、小柄? 髪が長くて」


 顔の半分は髪の毛で隠れるくらい毛量が多いが


「それで……顔は……目が大きい」


 不覚にも可愛いと思ってしまう。


「へぇ〜! なんか兄貴が好きになる感じの子って感じ!」


「だ、誰が好きって……!」


「隠さなくていいって♪ マジかぁ兄貴青春してるんだぁ~いいなぁ」


 なんでか俺の話を聞いて、リンが嬉しそうに足をバタつかせて喜んでいる。そんなに身内のこういう話が楽しいのか?


「お前はどうなんだよ? 大学で彼女とか出来たの?」


「んー? まぁ適度に遊ぶ子はいたよ? でも最近は配信で有名になっちゃったから自粛してるー。色々暴露されて炎上したらヤダし」


 一部の人の恨みを買う様な遊び方をしているのか……。兄弟って、片方が大人しいと、もう片方が弾けたりするって言うけど、ここまでそのパターンにはまり過ぎる兄弟ってのも珍しいよな。


「でも最近ちゃんと恋愛したいんだよねー俺も兄貴みたいな、そういうドキドキするやつやりた〜い!」


「いや……! 俺は別にドキドキなんか!」


「恥ずかしがっちゃって〜! さっき好きって言いながら真っ赤になってたくせに!」


 くそ。見られてたか……あれは乙成を喜ばせる為に、乙女ゲームのキャラになりきってるだけなんだ!! とは言えないしな……。


「あれには色々事情があるんだよ……」


「事情〜? あんな声カッコつけといてよく言うよ! 俺的にはもうちょっと自然に言った方がいいと思うけどね!」


「もういいだろっ! 俺は風呂に入ってくる!」


「あ〜逃げるなよ兄貴〜!」


 ただでさえ恥ずかしいセリフを毎回電話の度に言わされてるってのに、それを弟にイジられたらたまったもんじゃない。俺は、今だに熱の冷めない首元を擦りながら、足早で風呂まで直行した。


 

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