第15話転生とは

 しばらくぼんやりとしながら、俺はさっき朝霧さんが言っていた言葉を思い返していた。

 

 気持ちがこもっていれば、か。


 そもそも、気持ちってなんだ? 日頃の感謝を込めてとか? いや、むしろ感謝されこそすれ、俺の方が感謝する様な事は今のところ、ない。

 だからこそ今回の招待なんだよな? お呼ばれされたお礼……? なんかそれだと他人行儀な気がする。


 一つだけ、あるとすれば……


 ――なんかこーゆうのやってみたかったんです。


 ――だから一度、おんなじ時間を共有してみたかったんです。


 この前、池袋に行った時に乙成が言っていた言葉だ。俺はこの言葉を聞いた時から、なんていうかずっと心にわだかまっている事がある。

 でも上手く言葉に出来ない。こんな気持ちに合う言葉が見つからないのだ。


「そっか! 乙成はなんか友達とかと普通にやる様な事がしたいんだ!」


 なんか分かった様な分からん様な思いつきが浮かんで、俺のモヤモヤした気持ちが一気に晴れた気がした。圧倒的経験値のない俺は、同じく経験値の少ない乙成の為に友達とやる様な事を計画してやれば良いのだと考えた。


 でも、友達とやる様な事ってなんだ?

 飲み会? いや、それはこの前やったしなぁ

 買い物? それもこの前池袋で……


 もういっその事、夢の国に行くとかか?!


 案外有りかもしれない。最後に行ったのは子供の時か? もう全然覚えていない。少し大きくなってからは、選ばれし陽キャしか行っちゃいけない様な気がして行きづらくなったし、それに一体どんなテンションで楽しめばいいのかを忘れた。  

 今俺が夢の国に行ったとて、あの頃の様にはしゃげるだろうか……


 でもこれ以外の案がなんにも浮かばなかった。もうこれでいいかと思った俺は、とりあえず今の夢の国がどんな事になっているか全く検討もつかないので、手始めに本屋でも行って、めぼしい雑誌にでも目を通そうかと本屋に向かって歩き出した。全く、休日だっていうのに歩き疲れてクタクタだ。


 この駅の構内に隣接するビルは意外と広い。こういう所で目的の場所に真っ直ぐ行くのが苦手な人なら、来る度に違う経路で進んで永遠に道を覚えられないだろう。乙成とかはまさにそのタイプだろうな……。


 幸いにも俺はなんの迷いもなく真っ直ぐ本屋にたどり着けた。着いたはいいが、この本屋もまぁまぁ広い。俺は勘を頼りに、夢の国関連の雑誌がないかを適当に見てまわる事にした。

 それにしても、夢の国なんてマジで子供の時以来行ってないから、本当にどうなってるのか分からないな。夢の国側がオタクに寄せにいってたりして。最近乙成の影響なのか、なんでもイケメン化されているのではないかと勘ぐる様になっている。何となくだけど、夢の国も例外ではない気がする……悪役キャラ達にインスパイアされたイケメンが出てくるゲームとかありそう。今度乙成に聞いてみよう。


 そんな事を考えながら店内をウロウロしていると、いつの間にか雑誌コーナーを通り過ぎ、漫画やライトノベルのコーナーに来ていた。棚の一番目立つ所に平積みされたライトノベル達。棚には新刊が並べられ、分かりやすい様にポップまで付けてある。

 どうやらここは特集コーナーの様だ。今特集されているのは「異世界転生」を題材にした作品が並べられている。どの本もタイトルが本文になっているかの如く、あらすじを見なくても何となくストーリーが分かる。それにしても凄い作品数だな。こんなに転生したら日本から人が居なくなる。

 あぁ、そうそう確か乙成も、転生がぁーとかって言ってたよな。結構こういう作品も見たりするのかな? 見るなら本をあげるってのも有りかな……


 長いタイトルとカッコいい表紙の書かれた本達を指でなぞりながら、俺は乙成の事を考えていた。

 その時ふと、丁度目の高さの棚にあった、一際目立つ文字で書かれたポップに俺は目を奪われた。

 文庫本サイズで本と本との間に目立つ様に置かれているそれは、丁寧な文字とイラストで、転生についての説明をしているものだった。


 転生ってなに?

 転生とは今の人生を終え、新たに生まれ変わる事(輪廻転生ともいう)

 創作物の世界では、平凡な生活を送る主人公が、ある日何らかの形で死を迎え、前世の記憶を持ったまま異世界で生まれ変わり、チートスキルなどを駆使して人生をやり直す物語の事を指す。


 死を迎え……?


 人生をやり直す?


 ポップに目をやる俺の額に汗が滲む。心臓がバクバクと音をたてて騒がしい。血の気が引く感覚を覚えた俺は、ずっと聞き流していた言葉の意味に、ようやく気がついたのだ。

 

 乙女ゲームの世界に転生したくて、色々試みた結果ゾンビになっちゃった


 乙成は確かそう言っていた。


 その時、俺の中で具体化出来なかった言葉のピースが、カチっと音をたててはまった様な気がした。

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