第14話ゾンビって何が欲しいの?
大変だ。俺が女の子の家に招かれた。しかもその日は、その本人の誕生日だ。
なんという事だ。俺は軽率にも、お邪魔させて貰うよ〜みたいな感じのノリで行くと言ってしまった事を後悔した。これってあれだよな? プレゼントとか必要なやつよな? そんな物、最後に買った記憶なんて思い出せないくらい遠い昔だ。
女の子って何が欲しいの? いや、ゾンビか。いやいや、元は人間だったから、女の子って事で良いのか。良くわからなくなってきた。
家にいても仕方がない。とりあえず俺は、招待された以上手ぶらでお邪魔する訳にもいかないので、この週末を使って乙成へのプレゼント探しをする事にした。
23日は来週だ。この土日で何としてでもプレゼントを見つけなくては。
さて、とりあえず駅ビルや商業施設のある所まで出てきたは良いが、何のプランも立てていない。順当に行けば、相手が貰って喜ぶ物を贈るのが一番だろうか。
乙成が喜ぶ物といえば……
蟹麿しかいないと思うが、この前の池袋の時の様子を見るに、もう殆どのグッズは持っている筈だ。このジャンルにいくのは却って地雷を踏んでしまうかもしれない。
となれば、お菓子とか? いや、確かに甘い物が好きだとは言っていたが、当日は自分で大量にケーキやお菓子を作ると意気込んでいた。ここで俺が売り物のお菓子をあげても微妙な感じになるだろう。
「う〜〜〜〜〜〜〜ん、どうすれば……」
「あれ? 前田くんじゃない? 何してるのこんな所で」
俺が一人で頭を抱えながら町を歩いている所に、何とも絶妙なタイミングで朝霧さんが通りかかった。普段会社で見る時とは雰囲気が違ったので、声をかけられなければ気が付かなかっただろう。
いつもの朝霧さんと言えば、長い髪をまとめてメガネをかけているが、今日の朝霧さんは、なんていうか……派手だ。ウエーブがかった長い髪をおろして胸元の大きく開いた黒いワンピースというか、ドレスみたいな服を着ている。
端から見れば夜のお店で働いている人の様な恰好だ。普段の仕事モードの時でも十分ケバい感じなのに、今日の朝霧さんはその何倍もケバい。話しかけられた瞬間にたじろいでしまったのは、朝霧さんが醸し出す威圧感のせいかもしれない。
彼女の手元に目をやると、朝霧さんは両手に大きな紙袋を持っている。買い物か?
「あっお疲れ様です! 買い物で出てきたんですけどちょっと悩んでて……朝霧さんも買い物ですか? これは……画材?」
朝霧さんの持っている紙袋には、アート&ホビーなる文字が書かれている。俺が袋に目をやるなり、朝霧さんは紙袋を隠す様に両手を後ろにまわした。
「うん、まぁ……ちょっと……ね? それよりさっき悩んでて、とか言ってたじゃない? どうかしたの?」
なんか誤魔化された様な……? まぁいいか、そんな事より今は乙成の事だ。
「あ、そうなんですよ! 実は乙成の事で……」
立ち話もなんだからと、俺達は駅と商業施設を繋ぐ広場にあったベンチに腰掛けた。休日とあって流石に人が多い。
歩き疲れていたのか朝霧さんは、ベンチに座るなり、おっさんみたいな声を出して一息ついた。そういうところだぞ。
俺は、偶然会った事を良いことに朝霧さんに乙成の家に招待された事、そしてその日が誕生日である事を話した。話している途中から朝霧さんの目はなんだか輝きだしている。口元もどんどんニヤけていくし、この顔は絶対に面白がっていると見て取れる。
「やだぁ〜! なんなのその青春くさいやつ〜! 勘弁してよ〜!」
やっぱりな、朝霧さんはめちゃくちゃ嬉しそうに、さっきから俺の背中を何度もバンバン叩く。なんなんだこの人は。自分の生活に張りがないから俺達の事を勝手に妄想して楽しんでいるのか?
「わ、笑わないでくださいよ! 真剣に悩んでるのに!」
「ごめんごめん! で、何だっけ、プレゼント? そんなの心がこもっていたら何でもいいんじゃない?」
「それじゃ答えになってないですよ! えっ、あっ、ちょっと! 帰っちゃうんですか?!」
「私まだ行く所あるのよ~じゃあプレゼント選び、頑張ってねぇ」
行ってしまった……てか結局なんの役にもたたなかったなあの人。ただおっさんみたいな声出して、青春だなんだ言ってニヤニヤしてただけじゃないか。
はぁ……。
今日は本当に良い天気だ。日差しは心地よく風もない。俺は一人残されたベンチに腰掛けたまま、目の前を通り過ぎる人達の姿を意味もなく目で追っていた。
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