第12話マッハ廉太郎
「はぁ〜〜〜これ、いつになったら終わるんだぁ?」
昼休みの一件以降、みんなで手分けして明日のイベント用の配布物のセット作業に取り掛かっていた。呑気な顔して帰ってきた滝口さんも、当然道連れだ。俺と乙成、朝霧さんと滝口さんの4人は午後の通常業務は全てストップし、ダンボール箱を会議室へと運ぶと、この気の遠くなるような内職作業に取り掛かったのだ。
かれこれもう4時間以上……。流石に飽きてきたのか、滝口さんのスイッチは完全に切れてしまっている。
「滝口さん、文句言わないで手を動かして下さい」
俺が注意すると、滝口さんは「へいへい」と生返事をすると、まるで絵に描いた様に口をへの字にしながら作業に戻った。しかしほんの少し進んだかと思えば、度々手を止めて試供品のスッポンドリンクのラベルを熱心に読んだりしている。
「うう……皆さん本当にごめんなさい」
乙成は乙成で、手を動かしながらも酷く落ち込んだ様子でみんなに謝り続けている。こちらが見ていて痛ましくなる程の落ち込み様だ。
まぁ、俺もこんなミスをしたら、胃の辺りがグルグルと気持ち悪くなったりして、とてもじゃないが普通にしていられない。関係各所に謝り通しても決して晴れる事のない胸のツカエを抱えて数日過ごさないといけないとなると、乙成に酷く同情してしまう。
いつもに増して顔がドス黒くなっていく乙成に、俺はなんて声をかけて良いのか分からなかった。
「滝口! アンタは本当にデリカシーの欠片もないクズね! 乙成も、やってしまった事は仕方がないんだから、いつまでもグズグズ言ってないで手を動かす!」
こういう時の朝霧さんは、やはり主任だけあって頼りになる。少々口は悪いが、言いにくい事を滝口さんにズバっと言うし、床に顔がつきそうな程に縮こまっている乙成に向かっても、慰めるだけじゃなくきちんとお尻を叩く。やっぱり仕事一筋でやっているだけ違うなぁ。
今の一言は口に出したら完全に怒られる発言なので、俺はそっと心に留めて置く事にした。
「もう! 二人とも! 前田を見てみなさい! さっきから黙々とやってるわよ! しかもあの手捌き! 凄いわ! ワンセット作り終える時間が凄く早い!」
「え?」
急に注目されて気が付いたが、確かに俺の周りだけ、完成品の配布物が入ったダンボール箱が山の様に積み上がっている。こうやっている間にも、俺の手は休む事なく、ワンセット作って箱へと戻す動作を繰り返していた。
「おお! 前田、お前にこんな特技があったなんてな! すげぇ! 手元を見なくても出来るのか!」
「前田さん凄い……!」
「え? はは、物の場所をちゃんと決めて作業したら、後は順番通りにミニバッグに詰めるだけなんで楽ですよ。ほら、この空いたダンボール箱は、今度は出来上がったミニバッグを詰めるのに使えば効率いいし」
みんながマジマジと俺の手捌きを見ている。なんかちょっと恥ずかしい。早いと言われ、まさか喜ばれるなんて……ひょっとして俺の天職を見つけてしまったのかもな。
最速の前田……マッハ廉太郎……有りだな。
「流石前田くんね! この調子で行けば、今晩中には会場に納品出来ると思うから気合い入れて行くわよ!」
「おっし! オレもやるぞー!」
「私も! 皆さんの足を引っ張らない様にしなくては!」
「「おおーーーー!」」
朝霧さんの号令で、俺達は気持ちも新たに作業に没頭した。
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