第11話嵐です

「えー? これ何?」


「こんなにどうするんだろ?」


 普段はあまりこちらに寄り付かない総務部の人達まで見に来ている。俺達は状況を確認しようとその中を割って入ると、最初に目に入ったのはデスクの周りの大量のダンボール。中には、栄養ドリンクや文房具がどっさり詰まっている様だ。こんなに沢山の荷物が何故……? 

 状況が読めないまま立ち尽くしていると、大量の荷物に埋もれて頭を抱える朝霧さんの姿があった。髪の毛は既に乱れ、仕事の時にいつも着けているメガネはずり落ちている。俺は、朝霧さんに何があったのか尋ねた。


「朝霧さん、これって……」


「え? あ!! おーとーなーりー!! あんたやってくれたわね!」


「え? 私?」


「明日のイベントで来場者に配る予定の配布物! こっちの手配ミスで会場じゃなくて全部うちに届いてるのよ! しかも、ミニバッグに入ってセットされている筈の物達が全部バラバラ!」


「「ええ?!」」


 俺達は揃って驚きの声をあげた。確かに、この土日で行われる地域振興イベントで来場者に配布される予定のお土産は、イベント主催者おすすめのスッポンドリンクに、ボールペンとメモ帳、それにスッポンではなく、亀の絵が描かれたミニタオルという微妙なチョイスだ。それらが全て、透明のビニール製のミニバッグにセットされた状態で会場に搬入される予定だった。

 が、何故かそれが全てうちに届いている。一体、何があったというんだ?


「……あ。」


 隣で乙成が気の抜けた声を出す。何かを思い出した様だ。


「うわああああ!!!! ややや、やっちゃいましたああああ!!!」


 急に動揺して大きな声をあげる乙成。ここでこの反応は嫌な予感しかしないが、とりあえず冷静に、乙成をなだめる事にした。


「落ち着け乙成! 何があったんだ?」


「先日、業者さんから配送について問い合わせがあって……それで、私……」


「「なんて言ったんだ? / なんて言ったのよ?」」


 俺と朝霧さんが同時に乙成を問いただした。乙成は相変わらずオドオドとした様子で、先日の問い合わせの内容をポツリポツリと話し始めた。


「業者さんが、前日までに納品物を、御社に届ける様に手配するって……それで私、なんかボーっとしてて、それでオッケーです! って言ってしまいました……」


「……」


 乙成は膝を抱えてしゃがみ込む。俺と朝霧さんは絶句した。


「乙成……あんたねぇ……これ、一体何個あるわけ?」


「……業者が間違えてなければ、千……セット分です……しかも、その電話で、セットした状態じゃなくていいんですよねって確認も入っていたのに、私ったら、全然オッケーでーす! って何故だか言ったのを思い出しました……」


 朝霧さんがクラクラしている。明日の朝から行われるイベントで必要な配布物だ、これ目当てにくる人だっている筈なんだ。何としてでも納品しないといけない。


「あんた達、今日は帰れないと思いなさい」


 完全仕事モードに切り替わった朝霧さんは、ずり落ちていた赤縁メガネをかけ直すと有無を言わさず俺達に言い放ったのだった。


 祭りが、始まりました。


 

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