ネーラの思惑

「あなたが幻影にだまされなければこんな事にはならなかった」

「幻影?」

「ケローネの幻影をみたのでしょう、あの魅了術は、水の魔法使いのものだわ、あなた、彼がいなければ何もできないのね、空っぽ」

 ネーラはエイブスを介抱する。過保護なほどによく様子をみていた。エイブスは暫くすると眠りについた。ネーラはヘリオを睨み続けていた。

 多分エイブスのことがよほど好きなのだろうとおもった。そう悟った瞬間にふと笑みがこみあげてきて、すると相手はそれをさとったのか、ぷいとそっぽをむいたのだった。


 ヘリオは落ち込んでいた。たしかに、幻影といわれればそのような気がする。それに、エイブスが怪我をしたのは自分のせいだ。馬車は勢いよくかけていっている。レネが、その様子をみて、声をかけた。

「どうした?」

「いや……どうして私なんかのために」

「何をいっている?こちらにも思惑があるのだろう?私は知らないが、この”魔女”は人を殺めたことなどないように思える、さらった人間も元に戻したし、最初に焼いたのは”人形”だ」

「そうじゃなくて、私は……」

「?」

「うまくいえないけど、私は……あまり感情がない人間なんだ、誰かがしんでも、何も思わないかもしれない、誰かが傷ついても、悪いとおもっても……本当に、私に救う価値なんてあるの?私は、ケローネがいなかったら、私という人間性を維持することすらできないかもしれない」

「薄情な……」

 すっとネーラが立ち上がろうとする。それを手で制止してレネがいった。

「私はいつもお前をいじめてばかりいた、だが、私はあの時確信したのだ、お前は私より強くなっていると」

「あの時?」

「あの時、私が魔女ネーラにとらわれているとき、大神官ドューラは、魔女ごと私を吹き飛ばし、殺そうとした、だが魔女は風の魔法を軽減し、そしてお前は、私をかばった、私に”風”の刃がせまったとき、私の体の外側に薄い水のまくが張られたのだ、私は“火”と”探知”のスキルがある、それでわかった、お前は命の恩人だ」

「……」

「そう気を落とすな、確かに私たちはガキ大将と、いじめられっ子の関係だったけど、もう充分に戦える年なんだ、お互いをみとめ……」

《ズドーン!!》

 エイブスが、まだ痛む体をうごかして、ホロの隙間から、後ろをのぞいた。

「奇襲だ!!」

 ヘリオが同じ用にホロからのぞくと、単身で”魔装核兵”が突進してきていた。そのヘリオの肩をつかみ、レネがいった。

「作戦があるんだ」



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