街の異変 ネーラ
クロトの街で、フードをかぶった魔法使いがぽつりとつぶやいた。
「幻影、でみてきたけれど、やはり“予言”通りね、世界を終わらす魔王が目覚めた、それに比べれば、私の“役目”私が何といわれようと、かわいいものね」
人気が無くなった夜中の事だ、魔法使いは背中をごそごそとやって、重い荷物をほどいた。それは、泥でできた人形のようだった。
「ごめんなさい、生まれてすぐ、死ぬ命へ……」
魔法使いは、傍らから縛られているネズミを取り出した。その鼠に術をかけ、そして泥人形に移した。泥人形はみるみるまに、本物そっくりの人の形になりうごきだした。
何をおもったか、その魔法使いはフードをはがして、突然笑い出した。
「ふはははははは!!ふははははは!!私は魔女だ!!魔女がこの街を支配しにきた、魔女だ!!!手始めに、この人間に”罰”を与えよう!!!」
泥人形は訳も分からず、しかし、魔女の強烈な気配におじけづき、逃げ始めた。
人々が玄関から顔を出し、覗いている。あるものは叫びをあげ、あるものは、コソコソ話、あるものは、逃げるようにして別の場所へ。
その魔女は、あの旅人、今は“エイブス”となのっている彼と旅をしていた“ネーラ”だった。ネーラは狂気の笑みをうかべ、そして叫んだ。
「この罪人は!!!私を、そして魔女を“差別”した!!差別者には死刑を!!差別者には死刑を」
人々がざわめいていると、魔女ネーラは、杖を天にかかげた。するとたちまち雷があらわれ、人々の中央、通りの真ん中の地面に落下した。
《ズドォオオオオン》
「キャアアア!!」
「やめてえ!!」
「魔女だ!!本物の魔女!!人を犠牲に怪しき研究を行う不届きもの!!」
「なぜ、私を魔女というの?」
そうネーラがいうと人々は彼女の後頭部をゆびさしていった。
「角が生えている!!」
ネーラはケタケタと笑いだし、叫んだ。
「そうよ!!けれど、差別はいけないわ“魔女”が魔王軍の生き残りだとしても、ね!!!」
そう叫ぶと、先ほど逃げていた泥人形に向けて叫んだ。
「フォティア・ボール」
《ジュドォオオオーン》
すぐさま泥人形に着火し、それはすさまじい勢いで燃え始めた。人々の悲鳴と嘆きはさらに大きくなり、阿鼻叫喚の様そう。
それをみて、ネーラは凛々しく、うつくしい猫目をにんまりとゆがめ、叫んだ。
「死にたくないものは叫べ!!!魔女差別反対!!魔女差別反対!!」
そう叫ぶと、人々はおびえ、佇んでいるだけだったが、おじけづいたものたちから徐々に、その言葉を反復すると、やがて、町全体をおおうような絶叫に変わった。
「魔女差別反対!!魔女差別反対!!」
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