エイブス

 どれだけの時間がたっただろう。エイブスは、あたり一帯の、“守護使者”がひきつれていた子分たちを一人で打ち倒していた。

(しかし、さっきのアレはどういう事だ……あの子を逃がしたのは失敗だったか、いや……“アレ”を使えばあるいは)


 呼吸を整え、敵に突き刺した剣の一つを引き抜いているときだった。

「危ない!!後ろだ!!」

「なっ!!」

 急いで剣の刀身で受け身をとる、ギャリギャリとすごい音がした。巨大な“守護使者”が片手をふりはらい、なぐりつけたのだ。

「何で戻ってきたんだ!!あんた!!」

 なんとかいなして距離をとると、そこには、ヘリオと一緒に逃げてきたはずの、ケローネがいた。

「あの子は!!」

「逃げた、それよりさすがにあんた一つじゃ大変だろうと思ってな……バックアップくらいできるだろう」

「ふう」

 ケローネはバッグを漁り、魔法陣の書かれた書をとりだした。

「とっておきだ、あまり使いたくはなかったのだが」

 エイブスは、ジリジリと“守護使者”と向き合った。普通より大きな体、ヌメヌメとした皮膚、ロバのような耳をバタバタとさせ、筋骨隆々で、しっぽはトカゲのように長い。

「キョェエエエエエエッ」

 興奮したように叫んだ。


「クソ、ずいぶん攻撃をいなしてきたんだが……こんな」

 ふと、足元の違和感にきづいた。

「こんなに水っぽかったか?」

 地面がぬかるんでいる、だが次の瞬間“ぬかるみが引き上げていき、小さな水たまりができ、つぎのそれがもりあがると、彼の足に巻き付いた”


「な!!!何だこれは!!」


 ぬるぬるとした粘液だ。ケルピーは、口をあけて、にたーっとわらった。エイブスは叫んだ。足元が固定されている。

「火の魔術で俺の足元を焼いてくれ!!!」

「しかし!!」

「いいから!!」

 ケローネは、すぐさまその用意をした。だがその行動に入ろうとした瞬間、長いしっぽが右から左に勢いよく振り払われた。

「な……」

 エイブスは、巨大な木の幹に体を叩きつけられていた。ケローネは、咄嗟に右手にもっていた松明を宙に投げた。この暗闇だ、魔物類にも夜目がきくものがいるが、一か八かだった。

「ケロオォオオオネエエエエ!!!!」

 叫びながら、駆け寄ってくる影がある、来るな!!と叫ぼうとした瞬間、怪物の放つ異常なマナの気配に、ケローネは足がすくみへたりこんだ。

「クゥオオオオ!!!」

 そこには、ヘリオの姿があった。ヘリオはゆうゆうと怪物の巨体をとびあがると、右手にケローネから譲りうけた炎の短剣を抱えており、倒れたエイブスに語りかけたのだ。

「大丈夫だよ、私が守るから」

「わ、私は……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る