敵襲

 その夜、真っ暗になった深夜に、下が何やら騒がしい事に気がづいた。ヘリオはすぐ体をおこし、目を凝らしてみていると、かがり火で囲っているケローネたちの一時的なキャンプに侵入者があったらしい。

「どうして……」

「なんだ?」

 すぐにエイブスも体をおこし、下の様子を眺める。

「まずい!!」

 何かに気づいたように、エイブスはすぐに支度をととのえ、キャンプに向かうようだった。

「君は隠れてろ!!」

「え!?どうするの?敵は……」

「もはや身を隠している場合じゃなくなった、“珍しい敵”がきたんだ!!」

 

 その頃下では―“何か”に取り囲まれている一行。火の魔法使い二人が苦戦しており、あとの二人もあまりの事に身動きがとれずにいた。そして、ケローネもまた、焦って鞄を漁っていたが、どうやら戦闘用の魔術を用意していなかったようだ。いそいで魔法陣をバックからとりだした紙に書き込んでいる。

「火は利かないんだ!!“風”か“水”じゃないと効果がないんだ!!やめろ!!無駄な力を使うな!!」

 手を振り叫びながら、エイブスが降りてくる。

「なんだお前?誰だ?」

 クドウが尋ねる。

「俺は……旅人だ!!実は、お前たちを追ってきたんだ、“ヘリオ”に頼まれて」

「なんだと!?」

 突然怒気を荒げて、ケローネがヘリオに詰め寄り胸倉をつかんだ。

「ヘリオはどこだ!!あの子に何かあったら、お前……」

 その背後で、暗がりから巨大な口をあけて襲い掛かってくる魔物がいた。カエルの瞳と、長い鼻をもつ“ケルピー”である。落ち着いてクドウが放す。

「こいつは厄介な魔物だ……高等な“水使い”じゃないと太刀打ちができない……だが俺にまかせろ……」

 エイブスは魔物をみて、振り返る。

「俺が“マナの流れ”を読んで、敵の弱点をつく、ケルピーにしてはまだ小型だ、普通の馬の子ほどの背丈しかない、ただ手足が人に似ていて水かきがあるだけだ」

 そういうと、エイブスは剣を左手にもち、引き絞ると右手を前に突き出した格好になった。そこへケルピーが飛び込んでくる。

「ピィギュィイイ」

「しめた!!弱い個体だ!!」

 ケローネがあっけにとられていると、エイブスは叫んだ。

「お前たちは、“トドメ”を頼む!俺が攻撃した弱点に物理攻撃を打ち込め」


 はっとして、冒険者一行は、彼の言う通り、ケルピーにとどめをさす。最後の数匹といったところで、上からすさまじい声が響いた。

「助けて!!助けてぇエエエ!!!!!」

 勢いよく崖を転がりおりてきたのは、瞳一杯に涙を浮かべた、ヘリオだった。

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