小さな冒険。
ガタガタと揺れる荷馬車の中、エイブスとヘリオは荷物のふりをして、布をかぶって隠れていた。
【何も二つも一度に願い事をかなえる事はないだろ?待てよ】
【私は、私の能力を証明したいの!!ケローネは、きっとがっかりしているし、見せ場をつくらないと】
出発前に、荷物に忍び込むか忍びこまないか迷っていた彼ら。
「早く仕事を終えて“ヘリオ”と水の魔法の特訓をしたいよ、俺は知ってるんだ、あの魔法は強い……使い方次第さ」
「神父さんそれはいけませんや、いくらなんでも意地が悪いウソだ」
「そんな事はない!本当さ、俺は“水使い”にひどい目にあわされた事が……」
ケローネの声が聞こえる。やがて影からその姿が現れ、咄嗟に隠れ、結局荷物に忍びこむ事になったのだ。
「あまりくっつくな」
「なんでよ、っていうか狭いんだからどうしようもないでしょ?」
ふと横を見ると、顔を赤くして縮こまっている。
「え?あなたって……女性が怖いの?」
「違う!!断じて違う!!そうではなく……男好きなだけだ」
「!!??」
ヘリオは目を丸め、口をすぼめて驚いた。
ふと、目標地点につく前に、一向は渓流に近くで休憩をする事になった。もう日が暮れかけているようで、今日はここで野宿をするようだ。丁度いい岩陰もあり、魔法特化の冒険者が気配を消す魔法陣をかけた。
「火の魔物意外だったら、注意をする事はねえ、こっちには神父もいるし、この森に慣れてる冒険者があと4人もいる」
確かに屈強な男たちだ。それに馬車をひいている案内役の男ですら甲冑をつけていた。
「とりあえず、食料を節約したい、できるだけ食えるものを集めてきてくれ……」
リーダー役の“クドウ”が、そういうと皆は散り散りになった。
エイブスとヘリオは荷台からおりると、隠れて渓流に向かった。上流で見下ろせる。エイブスは隠れていても平気だったが、ヘリオが腹をすかせて、移動中何度も腹の虫が鳴いたため、自分たちの食事だけは用意しようという話になった。
ヘリオは少し離れて、川をじっとみつめて、念じてみせた。しかし、何も起こらない。だがヘリオにはある“仮説”があった。もっと強く念じる。鼻血が出るほどに、強く、強く。すると、ふと背後から、声をかけられた。
「何やってんの?」
そこにはふわふわと浮かぶ妖精の姿。
「やっぱり……“エィミア”、私の魔法は、発動してたんだね、まずはあなたたちを“召喚”するものだった」
「ふむ……上出来ね」
「じゃあ、あなたたちは私の“従者”なのね」
「はあ?」
「は?」
二人はしばし沈黙する。
「いいこと?私は“指導者”よ、“鍵の魔女”の魔法で、“あんた”をまっていたの、主従関係はあるけどね、けど勘違いしないで“水の女神”を信仰してはいるけれど、あなtじゃないから」
「……」
ヘリオが目をウルウルさせる。と、突然エィミアは焦って、あわあわとして、なだめようとする。ヘリオがめを手で覆うと、彼女は叫んだ。
「わ、わかったわよ!!従者でいいわよ!!ったく、こんな小動物と子供なんてかよわい属性をもってるヤツと張り合うこと事態おとなげないわ、でも、“弟”には気を付けて」
「弟……」
「ラッシュよ、蛇、あいつの“契約”は少し緩いから、私より自由に動き回る、あ、そうね」
ポンと、手を打った。
「そう、あいつを納得させる方法が一つあるわ」
そういうと、ヘリオの耳元で、エィミアは静かに耳打ちした。
エイブスは川に飛び込み、頭部腕部など、甲冑の一部を脱いで髪をあらった。その様子に、ヘリオは今まで他人に抱いたことのない。
“美しさ”
を抱いたのだった。
「どうした?」
「い、いえ、なんでもない」
そう、それは中性的でしなやかで白い肌を持つ、まるでどこかの王族のような気品を持つエイブスに感じた、初めての感情だった。
それから二人は、深夜にまた荷台に戻ろうという事になり、それまでは変わる変わる眠ることにした。
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