転生知
「なっ……」
(転生の事がばれてる?この世界で、それを知られるという事がどういう事か、オレはまだ、測りかねてる)
そう考えたヘリオは、かまをかけた。
「それでなんなの?言えない秘密の一つや二つ、誰にだってあるものじゃない?」
「僕は名のしれた冒険者でね、名をエイブスっていうんだ、だが僕は“大の魔女嫌い”でね……魔女適正のある人間を探している、《おとり》にするために」
「あんた一体何いって……」
ヘリオが身構えるよりさきに、相手は左手に力をこめた。そして何のフェイントもなしに、正拳をつきだした。
(はや……)
「(早い)と思ったのかい?……しかし、僕の拳を見破れるだけでまず、10点は上げよう、君はどうやら、いい《師匠》に鍛えられたみたいだね……」
ヘリオは素早くバックステップで後退する。エイブスは距離をとろうともせず、今度はこぶしに何事かを語り掛ける。
《雷神トールよ、雷を纏う拳を授けた前、正拳“ネフォ・トール!!”》
キリリとした中性的な瞳と顔立ちをみせ、美しく、かたと腰を引き絞る、引き締まった構えをするエイブス。そして宣言する。
「ヘリオ君、こう見えても僕は財もあるし、名誉もある、ゆくゆくは小さな辺境の地で、それなりの地位に立てればと思っているところだ、君に勝負で勝ったら、君の将来を〝僕にくれないか?”」
「なっ」
ヘリオは、らしくもない様子で顔をあからめたが、ニヤリと笑っていった。
「じゃあ、私がかったら何をくれるの?」
「そうだな、まずは君が望む“情報”を、それから、“なんでも”いう事をきくさ……それから君が眺めていた冒険者の手伝いにだって、いかせてあげよう」
「ふっ」
ヘリオは片手に先程の剣をとり、勢いよく突進をした。エイブスもまたニヤリと笑うと、左手に閃光が走り、雷がきらめいた。
「この拳は、雷の拳、一度くらえば……麻痺して体が動けなくなる、君にチャンスはそうそうない!!」
ヘリオは突然、剣を投げ出した。
「なっ!!!」
エイブスはそれをよけのけぞると、それから一息もつかない間に、ヘリオは肘で思い切りエイブスの頭に打撃をあたえた。
《ガンッ!!》
ヘリオは、距離をとった。顔に当たった音じゃない。エイブスは、ところどころ来ている甲冑の籠手でヘリオの打撃を受け止めたらしい。
ヘリオは再び畳みかける、今度は、エイブスの肩につかまり、なんとその上にさかさまになり逆立ちの姿勢をとった。
「何をっ!!」
エイブスは、2,3度ヘリオを捕まえようとしたり、左手の拳をあてようとするが、ヘリオはまるでサーカスのようにスルスルと抜けていく。
そしてあるとき、エイブスの後ろに降り立つと、反動をつくり、思い切り正拳づきをついた。エイブスは、首の甲冑のない場所を狙われ、左手でそれをかばうしかなかった。ヘリオは、先ほど投げ捨てた剣をとり、それで彼の手のひらを小突いたのだった。続けて剣から手を放し、後頭部にパンチを加える。
「勝っ……」
ヘリオが、追い打ちで左パンチをひねり出そうとした瞬間、モノの数秒の間に、エイブスは体を翻し、超低空の姿勢をとったかと思うと、ヘリオの腹部に電撃の左拳を浴びせた。まるでそれは、エイブス自身が雷のようになったかの様な、電光石火のあり様だった。
「グッ!!」
すさまじい速さ、その割には重さもあり、これまでうけたどんな打撃より重い者だった。だが、エイブスが驚いたのはその直後だった。
「なぜ……立っていられ……」
ヘリオが無意識にホルダーから、ケローネからもらった剣を取り出すと、エイブスの顔面に勢いよく切りつけた瞬間だった。ヘリオは勢いよく後方につきとばされた。人力というより、魔法のようだった。突き飛ばされたあとに、地面に手と膝をたて、エイブスをみると、エイブスの右手に《無属性魔法》の魔法陣が浮かび上がっていた。どうやらエイブスが《衝撃波》をだして距離をとったらしい。
「な、何……戦いは?」
「あぶなかった……本気になってしまった、君を命の危険にさらすなんて」
「どういう事?」
「ヘリオの腹部、服は剣できられ破れていた」
エイブスは、両手を上げていった。
「降参だ、君の勝ちだ、油断したとはいえ、僕にここまでさせたんだ、君の勝ちでいい」
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