特訓と知らせ

 朝になると、ケローネはすっかりよくなったようで、むしろ普段より元気よくニコニコした様子で朝食を一緒にとった。

「ヘリオ、毎日ありがとうな、今日のご飯もおいしいよ!」

 食事はヘリオの役割で、料理の腕はそこそこという感じだったが、嫌いではなかったので、苦でもなく、むしろこの程度で喜んでくれるので少しでもおいしいものをと考えていた。食べられる野草や、八百屋や肉屋で揃えてきた食材を、毎日楽しみながら料理をつくった。


 ヘリオもニコニコして食事をとったた、心の中は少し違った。 

『ねえ、あいつ、もう昨日の事忘れてるよ、単純というか間抜けというか』

『ヘリオの事をそんな風にいわないで!!』

 心の中で、妖精のエィミアと話をしていた。“擬人化類”の能力者には、自分がつくった人格と、心の中で会話をする人もいるらしい。


 食事を終えて、ケローネが仕事に出かけたらヘリオは森で自分の能力をたしかめ、かつこの“相手”と話をしたいと思っていた。だが、ごはんも終わりにさしかかったころ、玄関の扉が勢いよく殴打された。

《ドンドンドンドン!!!》

 ケローネがドアをあけるとそこには、禿げ頭の街の冒険者クドウがたっていた。玄関とリビングは距離があるので、廊下近くのソファーの端にこしをかけ、ヘリオは盗み聞きをする。

「隣町の冒険者たちが、ひどい目にあったらしい……場所的にこちらが近いし、どうやらただの《死体回収》の依頼がきてな、冒険者はではらっているし、あんたと私でどうかと思って……」

 ケローネは神父をする傍ら、人手不足の冒険者ギルドの使いパシリもたまにやっていた。ふと考えたケローネは、クドウ相手にこんな事を相談する。

「じゃあ、娘もつれていっていいか?」

「いや、だがあんたの娘はスキルが……」

「なんだ?」

「い、いやすまねえ、なんでもない、ただ……ホラ、まだ登録もしていないだろう、そんな子供をいきなりつれてけねえ、彼女に何かあったらどうする、彼女の同意だけじゃねえ、あんたも彼女の身の安全を完全に保証できるか?」

「……」

 ふと考えたケローネは、わかった、といいのこし扉をしめた。


 何も聞かなかったふりをして、コーヒーをすすっていたヘリオは、そのコーヒーを思わず噴き出した。

「ヘリオ……」

「ごごご、ごめん!!ぼーっと本をよんでたら、ヘリオの“ブラックコーヒー”のんじゃって、子供の舌にはまだ早かったみたい」

 ケローネは笑いながらテーブルを、近くにあった布巾でふく。そして腰にさげている、いくつかの武器から小さな小刀をホルダーをはずして、ホルダーごとヘリオにわたしていった。

「ヘリオ、これは……古代の龍の鱗でつくった“魔道具の剣”だ、お前はきっと立派な冒険者になる、それが念願だったろう?お前は“答えを探しに行く”といった、出生の秘密かも、生きる目的かも、俺にはわからないが、ただ……ヘリオ、俺に一つ約束をしてくれ、自分を大事にできるか?」

 ヘリオは、固くにぎられたその小刀をみながら答えた。

「私は、あなたに引き取られるまで人生を諦めていた、でもここで誓うよ、あなたのためにも、私は私を大事にする」

「ヘリオ……ならばこれを大事に、自分の身は自分でまもるんだぞ」

 ケローネはヘリオに抱き着いた。思えば転んで擦り傷をおっただけで、命を心配するほどの過保護に育てられてきたのだ。もし“ウソ”であっても、その約束を守ろうと誓った。








 

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