恐怖。

 ヘビは苦手だった。そのニュルニュルとした体も、ゴツゴツと体を覆う鱗も、そして何より、見たものを敵としてしか観測しないであろう強気な瞳も、恐怖の対象だった。

「あんた、何よ、なよなよしちゃってさ」

「でででで、どどどど、どうして……」

「ふん、あなたはひよっこで信じないだろうけど、私たちは“ずっと”まっていたのよ“スキル”という形に分類されて、また“呼び起こされる”時を」

「え?」

 ヘビ型の水流が自分のほうへさげた首先をよこした。

「コイツ、バカだな?」

「……」

 ヘリオは、突然わいたヤカンのように顔を赤くし、そしてたちあがると、顔のありとあらゆる鼻から煙をだして怒った。

「なんだとこいつ!!!――」

 ヘリオは、高校生でおわった前世ですら、そこそこ賢い部類だった。確かにニヒルで、あらゆる欲求が欠如していたが、知的思考や、想像力に関しては自身がある。それをたった今、であったばかりのよくわからない―妖精モドキ―に批判されたのだ。

「こいつ!!絞め殺してやる!!」

 ヘビは、もだえ苦しんでいた。水とは思えないほどに、確かなヘビの質感がある。

「ぐ、ぐぐぐ、苦しい!!!」

 もはや、ヘビに対する苦手意識というものは水面にはじけさる泡の様に消え去っていた。

「ラッシュ!!ちょ、ちょっとあんた!!加減しなさいよ……!!“鍵の魔女”の魔法で、私たちはあんたの“魔力操作”には従わなければいけないの、主従関係を結んでいるのよ!!」

「あん!?」

 ヘリオは、にらみをきかせた。妖精エィミアは少しひるんだ。

「い、いや……ラッシュがあまりにもかわいそうで……仮にも姉弟だし」

「は?そんな事どうでもいいんだけど!!私、あんたたちの正体が知りたいのよ」

「だから、従者だって!!」

「従者??スキルの説明にもなかった能力が私にあるとでも?」

「わかった!!わかった!!説明するから、弟を放して!!!」

 ひどく通る声でエィミアが叫んだので、ヘリオは蛇を凝視した。ぐでっとして気絶している、息も絶え絶えといった感じである。

(まあ、敵だったら間抜けもいいところね、たしかに、擬人化類の魔法って術者以外は干渉できないんだっけ、術者の魔力や術者への攻撃が対処の基本……)

《ぱっ》

 と放すと、ぶくぶくと湯の中に沈んでいった。エィミアが手を伸ばす。

「ねえ、ちゃんと説明するわ、あんたは”特別”だってこと、でもこれは結構重要な秘密だから、私たちの存在は、しばらく隠しておいてね」

 ヘリオはむすっとしながらも、エィミアに手をのばした。が、その時あしもとに絡みつく感触を感じ、即座にうけみをとった。ヘリオはひっくり返って湯に頭から顔をつっこんだ。手で受け身をとったおかげで大事にはいたらなかったものの、ヘリオは怒りにまかせて“敵”を探り当て、かみついた。

「いっでえええええええええ!!!」

 ヘビの“ラッシュ”は、すさまじい大声をあげて飛び上がった。大音量でおちついた三人は皆で寝ているケローネを心配したが、湯をでて髪をふきながら様子をみにいくと、ヘリオはにこにこして眠りこけていた。















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