1:第5話 VS《憤怒の聖剣グラム》――開始

 ◆対面式を早々に終え、屋外闘技場へ――◆


《エルシオン学園》の広大な敷地内の中央には、円形えんけいの巨大な建造物が存在する。天井部てんじょうぶは開放された状態で、まさに屋外闘技場といった様相ようそうだ。学園生達も、中央を取り囲むように設置されている、観覧席にてことの成り行きを見守っていた。


 そしてライカは今、エクスとリルを引き連れ、闘技場のメインステージたる中央部に立っている。対面側には、〝実戦試験〟を提案した張本人、ニュウが待ち構えていた。


「ふふん、逃げずに来た度胸だけは、褒めて差し上げますわ。けれど、すぐに後悔させてあげますわよ、エクスカリバー?」


 ライカの事など眼中がんちゅうにないらしく、エクスに敵意の籠もった言葉を向けるニュウ。

 しかし、対するエクスは首を傾げながら応じていた。


「ねえアンタ、ニュウって言ったかしら? 何だかアタシに文句あるみたいだけど、どうして? アタシ、ぜんっぜん心当たりないんだけど」


「貴女になくとも、わたくしにはありますの。《聖剣クラス》最上位のわたくしを差し置いて、使い手も選ばないクセに最強と呼ばれる貴女が、常々つねづね目障めざわりでしたのよ」


「はあ? 何よそれ、逆恨さかうらみじゃない。うつわっちゃいわねぇ、アタシと違って」


「ふんっ、大口おおぐちを叩けるのも今日までですわ。貴女はついに、使い手を選んでしまった。叩き潰して、誰が本当に最強なのか、証明してあげますの。そう、わたくしと、この」


 言いながら、ニュウがたずさえていた剣のつかを掴む。仰々ぎょうぎょうしく宝石で飾り立てられたさやから、勢いよく抜き放つと。



「――《憤怒の聖剣グラム》が――!」



 現れたのは、宝石にも負けない輝きを湛える、幅広はばひろの剣身。まるで呼吸でもするように、アメジストを思わせる薄紫の光が、明滅めいめつを繰り返していた。


 ついに抜き放たれたニュウの《聖剣》に、観覧席から学園生達の驚嘆きょうたんが聞こえてくる。


「おおっ、出たぞ! あれも《至高の聖剣》と同じ、〝伝説級〟の《聖剣》だ!」

「確かニュウ先輩の家に代々伝わる剣で、数世代ぶりにニュウ先輩が選ばれたんだっけ?」

「ニュウ様ぁぁぁ! 《聖剣クラス》最上位の実力、見せつけてくだせぇぇぇ!」


 周囲のざわめきを受けながら、令嬢・ニュウが、剣の切っ先をライカに向けてくる。


「さあ、《至高の聖剣エクスカリバー》を手に取りなさい! もちろん《魔狼剣フェンリル》も使って構いませんわよ? 本当に使えるかなんて、知りませんけれどっ。おーっほっほ!」


 妙な高笑いを放つニュウの言葉に、リルが小さく身を震わせる。


「あぅ……た、戦い、ですか……っ。こ、怖いですけど、ライカさまのためならっ」


 いさましい事を言ってくれるリルだが、狼耳も尻尾も、弱々しく垂れてしまっている。

 無理なんてする必要は無いと、ライカが声を掛けようとした、その直前。


「別に無理しなくてイイわよ、リル。下がって後ろで見てなさい」


「! え、エクスさん?」


「アイツのご指名は、アタシみたいだしね。ま、誰が相手だろうと、アタシの力なら楽勝よ。

ね、そうでしょ、ライカ?」


 ぱちっ、とウインクするエクスに、ライカは軽く面喰めんくらいながら、笑って答えた。


「ああ、その通り! リル、俺とエクスに任せて、安心して見ていてくれ!」


「まっ、大船に乗った気でいなさい。ふふんっ、アタシを誰だと思っているの? 最強にして最高、全ての高みに至りし、究極の《聖剣》……」


 ゆっくりと目を閉じたエクスが、すう、と大きく深呼吸した、次の瞬間。

 女神の如く美しいエクスの体が光を放ち、彼女自身である《聖剣》の中へ入り込む――!



『このアタシこそが――《至高の聖剣エクスカリバー》なんだから――!』



 エクスのりんと高い美声が響くと共に、勢い良く飛んできた《至高の聖剣エクスカリバー》が、ライカの右手にぴたりと収まる。


 初めて持ったと思えないほどにのは、聖剣の加護とでも言うべきか。鞘から抜き放った両刃りょうばの剣身は、黄金にさえ等しい輝きを放ち、見る者全てを圧倒する。


《至高の聖剣》が収まっていた鞘を受け取ったリルが、ライカ達に声援を送ってきた。


「ライカさま、エクスさんっ……応援してますっ。が、がんばってくださいっ!」


 気弱ながら精一杯に振り絞ったリルの声に、ライカは笑ってうなずき返し、前へと進み出る。


 迎え撃つは、《聖剣クラス》でも最上位の実力を持つとされるニュウ=シグリア。アメジストの光を湛える《憤怒の聖剣グラム》を、彼女が両手で構えると。


「はんっ、最強だとか最高だとか至高だとか、笑止ですわっ! 本当の最強が誰なのか、教えてあげますのっ! はあああああっ!」


 地を蹴り、上空に飛び上がった。明らかに人間離れした、常識はずれの跳躍力ちょうやくりょく。それこそが、《聖剣》の持つ基本性能の一つ――身体を〝強化バフ〟する力だ。


 そのままライカに向けて、天空から星降るように墜ちていくと。


「最強は、このわたくし――ニュウ=シグリアですわッ――!!」


 振り上げた《憤怒の聖剣》を、容赦ようしゃの欠片もなく叩きつけた。

 ――けれど、ニュウの表情は、勝ち誇ったものではない。驚愕きょうがくに、目を見開いている。


 それもそのはず、ニュウが振り下ろしてきた一閃いっせんは、エクスの剣身によって、あっさりと受け止められていたのだから……が、しかし。


『このアタシが、《至高の聖剣エクスカリバー》がついてるのよ、当然でしょ。……当然、だけど……どういうコトなのよ、コレっ……』


《至高の聖剣》の剣身から聞こえてくるエクスの声にも、戸惑いがにじんでいた。

 それがなぜなのか、続けてエクスが叫んだのは。



『ライカ、アンタで、どうして今のを軽々と止められたのよ――!?』



 驚くエクスの言葉通り――ライカは右腕の片手持ちで《聖剣》を構え、ニュウの渾身の一撃を受け止めていた。

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