1:第3話 愛称まで決めてしまったら、もう腹を括るしかない

 なぜこうなってしまったのだろう。まあ完全に自業自得ではあるが、ライカが我ながら往生際悪く、否定の声を上げようとする。


「い、いや、ちょっと待った! えーと、エクスカリバーさんと、フェンリルちゃん……」


「むっ。ちょっと何よ、その呼び方っ」


「へ? あ、あれ、エクスカリバーさん? 名前、間違えてたっけ?」


「間違えてないわよ。けどね、アンタこれからずっと、いちいちエクスカリバーさんとか呼ぶつもり? 鬱陶うっとうしいでしょ、そんなの。だから……あ、愛称とか、付けなさいよねっ」


「愛称? う、うーん?」


「そうよ、アンタにだけ、特別に許すわっ。最大限、可愛らしいのを要求するけどっ」


 なぜか彼女達の使い手になる方向で話が進んでいるが、長ったらしい名前では呼びにくいのも確か。ここは彼女の言葉に、甘えるとしよう。


「わ、分かった。それじゃ……こう呼ばせてもらうよ」


「え、ええ。……ふふっ、さあ、心を籠めて、お呼びなさいっ♪」


 そわそわとしながら待つ《至高の聖剣エクスカリバー》に対し、ライカが精一杯に考えた、〝可愛らしい愛称〟とは――!


! よろしく、――」


「――エクス、と呼びなさい。それ以外で呼んだら、たたるわよ」


「な、なぜ!?」


 どうもお気に召さなかったらしい。本当に《聖剣》を抜いてきそうな彼女――エクスに、ライカが恐々としていると、《魔剣》の少女がおずおずと袖を引っ張ってきた。


「あ、あの……ボクも愛称、付けて欲しいですっ。ちゃん、とかは、いりませんのでっ」


「キミも? えっと、そうだな、じゃあ……」


「! ふふんっ。アンタも変なアダ名、つけられちゃいなさいっ……ぷぷっ」


 エクスが何やら含み笑いしているが、とにかくライカは再び考え込む。


 そして導き出した、《魔狼剣フェンリル》の愛称は。


「リル……そう呼んでも、いいかな?」


「わあっ。かわいいです、嬉しいですっ。いっぱいいっぱい、呼んでくださいねっ♪」


「そ、そうかな? いや、喜んでくれたなら、何よりっていうか」


「何でよ! おかしいでしょ! 納得いかないんですけど!?」

「「!?」」


 なぜか憤慨しているエクスに、ライカも、《魔剣》の少女――リルも、戸惑うしかない。


 何やら騒がしくなってしまった対面式だが、渦中かちゅうの人物たるライカに聞こえてくる学園生達の声には、妙な諦めの色が滲んでいた。


「……結局、〝伝説級レジェンド〟の《聖剣》も《魔剣》も、あの新入生のモノ、ってことか?」

「聖魔二極の剣を同時に所有するなんて、聞いたこともないんだけど……」

「でも、使い手を選ぶのは、あくまで剣の方だし……仕方ない、のかしら?」


 どうやら本当に、ライカはこのまま、エクスとリルの主になってしまいそうだ。


 とはいえ、ここまで来たら、もう腹をくくるしかない。愛称まで付けて、今さら二人を突き放すのは、あまりにも無慈悲だ。そう考えたライカが、言葉を発しようとすると。


「よーし、分かった! エクス、リル、これからよろしく――」

「――ちょーっとお待ちなさーいっ!?」


 突然、制止の声が割り込んできた。今度は何事か、とライカが視線を向けると、そちらに集中していた人垣が、左右へと真っ二つに分かれていく。

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