後半 白銀の狼公爵は、今日も嫁に耳をもふられる
結婚から数か月後には、ルイスの妊娠も判明。
医師に「おめでとうございます」と言われたときには、アルバーン邸はお祭り状態となった。
まだ人種も性別もわからないが、獣人でも人間でも、男の子でも女の子でも、二人の大事ないとし子であることに変わりない。
妊娠発覚後、グレンがあまりにも過保護だったため、ルイスは少々困ってしまった。
だが、
「獣人男性の番への愛って、そういうものなのよ……」
と、グレンの母が教えてくれたから、獣人の特性として受け入れることにした。
おそらくだが、番を見つけた獣人男性であるグレンの父も、なかなかのものだったのだろう。
グレンの母は、当時を思い出したのか、どこかげっそりとしている。
獣人とはそういうものであるが、過保護すぎてストレスになるようなら話してくれ、とも言ってくれた。
こういったときに力になってもらえるから、お義母さんが番の先輩でよかったなあ、と思ったものだった。
***
グレンの私室で、二人は揃ってベッドに乗り上げていた。
グレンは後ろからルイスを抱え込むようにして、大きくなってきた彼女のお腹に触れている。
結婚後、二人は別邸へと移り住む予定だったのだが、ルイスの妊娠がわかったため、落ち着くまでは本邸を使うことになっていた。
彼の温もりを感じながらも、ルイスは自分の手をそっと彼の手の甲に重ねた。
「……グレン様」
「ん?」
「グレン様って、本当に私のことが好きだったんですね」
「ど、どうした、急に。好きなのは、まあ、そうだけど」
事実ではあるが、突然そんなことを言われたものだから、グレンがにわかに頬を染める。
「番だとわかる前に、私に想いを伝えることもなかったし、嘘をついて早くに婚約させることもなかった。……色々あった今なら、本当に愛されてたんだなあって、わかる気がして」
「……きみを、傷つけたくなかったからな」
グレンがルイスに想いを伝えなかったのも、想い人を手に入れるための嘘をつかなかったのも、愛する人を傷つけたくなかったから。
他の女性が番だとわかったとき、ルイスを放り出したくなかったから。
グレンは誠実で、愛情深い。ルイスにも、そのことがよく伝わっていた。
「……あなたの番で、本当によかった」
「俺も、きみでよかったと心から思うよ」
しっとりとした夜に、二人は笑いあう。
あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください。
そう懇願して一夜をともにした初恋の二人が「運命の番」だったなんて、奇跡のようなお話だ。
けれど、たしかにここに存在する現実でもある。
グレンの腕の中で、ルイスがもぞもぞと向きを変える。
グレンはてっきり、彼女が正面から身体を預けてくれるものだと思ったが、ルイスの手はグレンの白い耳に伸びていく。
両の耳に触れると、ルイスは「ふわふわ~」と言いながら緑の瞳をとろけさせた。
「この耳も、もう触れないかと思ってました。それが、まさかの触り放題でびっくりです。ふわふわのもふもふで最高です」
「耳が本命みたいな言い方するなあ……」
「ふふ」
「否定してくれ」
二人が仲良くなったきっかけは、グレンのこの狼のような耳だ。
旦那様となったグレンの耳触り放題権を手に入れたルイスは、今日も、上機嫌に彼の耳を堪能する。
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