あなたと一緒に
「そうか。カリーナは間違えたか」
クラークがカリーナ相手の検証を終えたころ。
アルバーン公爵邸で待機していたグレンは、使用人からの報告を受けていた。
短く返事をするグレンの表情からは、いまいち感情が伺えない。
彼は、カリーナの泊まるホテルには近づいてすらいなかった。
グレンが近くにいた場合、番の気配を感じていたからだ、とカリーナに逃げ道を与えてしまう可能性があったからだ。
今回の検証には、カリーナの父であるオールステット家の当主に加え、王族筋の者まで呼び出されており、獣人も複数人いる。
カリーナが嘘をついていると、みな理解しただろう。
そこにはいないグレンを探して、カリーナがホテル内を歩き回ったとの話もある。
本当に番であれば、そんなことをするはずがない。
「確かめ終わったなら、俺も行く。クラークだけに任せておけないからな。……ルイス、きみはどうする?」
「私は……」
検証が終わり、カリーナが嘘をついていたと証明された今、グレンが屋敷に控えている必要はない。
このままクラークに任せておいても片付くだろうが、グレンの気持ちとして、弟に丸投げするわけにもいかず。
クラークたちのいるホテルへ向かうために立ち上がったグレンは、ルイスの意思を確認した。
偽の番扱いされたルイスも、この騒動の当事者だ。
グレンの番は自分である、嘘をついているのはカリーナだと確信を持ってはいたが、念のため、結果が出るまでグレンとともに待機していたのである。
「……四大公爵家の獣人が、番を詐称したとわかったんだ。あまり気分のいい話にはならないと思う。俺とクラークでかたをつけてくるから、きみは無理をしなくてもいい」
正式な処分は追って決めることになるだろうが、今、カリーナ周辺の空気は最悪なものになっているはずだ。
この検証のために呼ばれた人々が、カリーナを激しく罵っている可能性だってある。
高位貴族が番を騙ることは、それほどまでに罪深く、嫌悪されることだった。
それもそうだろう。その獣人の一言で、相手の人生を、それぞれの家の繋がりを、簡単に操ることができてしまうのだから。
ルイスは、自分も同行すべきかどうか迷った。
カリーナには、偽の番、可哀想、などと言われたあげく、偽物との婚約を解消すべきだと言いふらされた。
そんなカリーナに対する怒りはあるし、彼女がどんな結末を迎えるのか、自分の目で見たい気持ちもある。
けれど、現場の空気がどうなっているのか、追い詰められるカリーナをわざわざ眺めにいきたいかと考えると、行きたくない気もして。
ルイスの迷いを感じ取ったのだろう。グレンは、ぽん、とルイスの頭に触れる。
「……きみの好きにしていい。カリーナは、もう逃げられない。俺たちがこれ以上なにもせずとも、相応の処分を受けることになるはずだ。だから、一緒に来るかどうかは、きみに任せる。言ってやりたいことの1つでもあれば来てもいいし、ここで帰りを待っていてもいい」
「言って、やりたいこと……」
行かないほうに気持ちが傾いていたルイスだったが、グレンの一言で考えが変わった。
「グレン様。私、カリーナ様に聞きたいことがあります」
まだ座ったままだったルイスが、グレンを見上げる。
彼女の瞳が、真剣な光を宿していたから。
断罪されるカリーナを安全圏から眺めたいわけではないことも、わかったから。
グレンは、己の番に手を差し出した。
「わかった。なら、一緒に行こう」
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