検証
「あの、これは……?」
ルイスとグレンが、すれ違いを解消した翌日。
クラークに呼び出されたルイスは、ミリィの服を着せられて戸惑っていた。
ちなみに、靴もミリィのものをはいている。
ミリィのほうが背が高いため、ルイスが着るとやや丈が長くなる。
裾を引きずらないよう、丈が短めのワンピースが用意された。
流石に男性のクラークが姉の服を手渡したり、ルイスを着替えさせたりするわけにもいかず、ミリィもその場にいた。
「可愛いわ、お義姉さま! 私には少し可愛すぎるデザインだったのだけど、お義姉さまなら着こなせるわね!」
「ミリィにも絶対に似合うと思いますよ?」
「ふふ、ありがとう。お義姉さま」
自分の服をルイスに着せたミリィはご機嫌だ。
可愛すぎるデザインだった、なんてミリィは言っているが、それは彼女にクールビューティーのイメージがあるからだろう。
素の彼女を知るルイスからすれば、可愛すぎて似合わない、なんてことは絶対にないと思えた。
思ったことを素直に言えば、嘘はついていないことがわかったのか、ミリィも嬉しそうに笑った。
「お兄様ってば本当にでかしたわあ……」
「私も、こんな素敵なご家庭に迎えていただけたこと、グレン様に感謝しないとです」
なんてふうに、義理の姉妹がきゃっきゃと話し始める。
ルイスは、ミリィがこの服を自分に譲るつもりなのかと思った。
自分には可愛すぎた、義姉なら着こなせる。話の流れから、そのくらいしか思いつかなかったのだ。
しかし、真意は違ったようで。
「仲がいいのはいいことだけど、本題いかせてくれる?」
「あっ、ごめんなさい、クラーク。私ったら、つい」
話が進まない気配を感じたクラークが、流れを切る。
女子同士で盛り上がってしまった、とミリィは少し照れていた。
男二人に囲まれて育ったミリィは、お姉さんが欲しいと思っていた。
だから、義姉であるルイスと楽しく話せることが嬉しくてたまらないのだ。
「ルイス義姉さん。この格好で、行ってきて欲しい場所があるんだけど」
「行ってきて欲しい場所、ですか」
「うん。兄さんの仕事部屋のほうで……」
そうして、クラークはルイスに具体的な位置を指示していく。
クラークに指定されたのは、グレンの仕事部屋からは少し離れた、階段の途中。
彼が言うには、今、グレンは二階の仕事部屋にいるそうだ。
アルバーン公爵邸に、二階に続く階段は複数ある。
クラークが選んだのは、その中でも、最も遠い、とまではいかないまでも、グレンの仕事部屋に近いわけでもない階段のおどりばだ。
「ここに立って……。なんというか……『会いに行きたいけど仕事中だから迷惑かな、どうしよう』って感じの動きをして欲しくて」
「あ、会いに行きたいけど迷惑かな、という動き」
「うん。いけそう? あ、あと、足音はなるべく立てずに」
「やってみます……!」
なんだかよくわからなかったが、ルイスはクラークの指示を実行。
これ以上進んでいいのかどうかを迷うかのように、踊り場でとまって。
あとは、ちょっとだけ身体を左右に動かしてみたり、数歩戻ってからまた進んだりを、何度か繰り返した。
すると、徐々に足音が近づいてきて。
「ルイス? どうした? あんなことがあった後だし、話したいことや用があれば遠慮しなくても……」
と、仕事部屋にいたはずのグレンがやってくる。
「ん、それ、ミリィの服か? よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」
「それで、どうしたんだ? 今は急ぎの仕事もないし、俺の部屋に移動しようか?」
「いえ、えっと……」
ここから先はどうすれば、と、ルイスはちらちらと後ろを振り返る。
一階で、クラークとミリィが待機しているはずなのだ。
そんなルイスの気持ちを感じ取ったかのように、クラークがすっと姿を現した。
「うん。思った通りだね。協力ありがとう、ルイス義姉さん」
「クラーク? 思った通りって、どういうことだ?」
「兄さんは、ルイス義姉さんがここで迷っているのがわかったから、ここまで来たんだよね?」
「ああ。俺が仕事中だから、遠慮しているのかと思って」
「服も靴も変えてるのにこの距離でわかるの、きもちわる……」
「おい。言っておくけど、番を見つけたらお前もこうなるんだからな。で、これは一体なんのつもりなんだ?」
呆れたように息を吐きながらも、グレンは階段をおりていく。
「獣人の、番を探知する能力を試したんだ。これと似たようなことを、カリーナに対して行う。そうすれば、彼女が嘘をついていると証明できるかもしれないから」
「なるほどな。本当に番であれば、俺のように気配で探れる。それができるかどうか試すってことか」
「うん。検証のためとはいえ、兄さんがルイス義姉さんの居場所を大体探れるのがわかって、ちょっと気持ち悪かったけど」
「わかるんだから仕方ないだろ……」
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