動き出す弟妹たち
「……まあ、俺も、嘘をついて手に入れてやろうと思ったことが、一度もないと言えば嘘になる。ルイスが年を重ねるたび、他の男と婚約をしたって知らせを聞くことになるんじゃないかと、怯えてたよ。でも、できなかった」
「……婚約したあとに番を見つけたら、私を放り出すことになるから?」
「うん」
一呼吸おいてから、グレンが続ける。
「……そんなことは、絶対にしたくなかった」
やや力のこもった、彼の声。彼の青い瞳は、どこか憂いを帯びていて。
彼の言葉が本心からのものであると、理解できた。
「……両想いなのかな、とはなんとなく思ってはいたんだが」
グレンがちらりとルイスを見やる。
その通りだったため、ルイスは彼から視線をそらしつつも、否定はしなかった。
そんなルイスに、グレンは苦笑する。
「……まあ、兄さんは、両想いだと思ってても、番だなんて嘘はつけなかったわけで」
「大事だからこそ、ってやつよね」
「あとから本物が見つかったら、大惨事」
うんうんとミリィは頷く。
「……私たちだって、幼馴染で、初恋の相手が番だったなんて、夢のような話だと思ったわ。でも、アルバーン家の誰も、兄の言うことを疑わなかった」
「それは、僕らが兄さんを信頼していたから。兄さんがどれだけルイス義姉さんのことを想っているかを知っていたから。兄さんが、好きな人を傷つけるような嘘をつくはずがない」
「だから、絶対に大丈夫よ。お義姉さま。お兄様を信じて」
「兄さんは、こんな嘘ついたりしない。兄さんの片思いをずっと見てきた僕らが保証する」
「ミリィ、クラーク……」
義理の弟妹となる二人も、偽の番と呼ばれたルイスを心配していたのだ。
二人とも獣人とはいえ、己の感覚で、ルイスが本物の番であるかどうかの判別はできない。
でも、彼らはグレンは嘘などついていないと、信じていた。わかっていた。
先ほど、グレンが自分まで一直線に走ってきたこと。
彼の弟妹が、「信じていい」「そんな嘘で傷つけたりしない」と自信をもって言ってくれたこと。
それらが、「自分こそが番である」という気持ちを、もう一度、ルイスに持たせてくれて。
「ありがとう、二人とも。……グレン様も。私を見つけてくれて、嬉しかった」
「ルイス……」
わだかまりが溶け、ルイスとグレンは見つめ合う。
二人のあいだに甘い雰囲気が漂い始めたことを合図に、クラークとミリィはそっと席をたつ。
邪魔者は退散します、あとは二人で仲良くしてください、といったところか。
グレンとルイスのいる東屋から離れつつ、ミリィはほっと胸をなでおろす。
「ルイスお義姉さまに信じてもらえたみたいで、よかったわ……」
「結局ラブラブだよね、あの二人。僕らが話をする前からあの調子なんだから。僕らのサポート、必要なかったんじゃない?」
「まあ、ないよりはよかった……と思うわよ。多分」
屋敷に向かっていた二人だが、ふと、クラークが足をとめる。
「クラーク?」
「……さっきは兄さんたちの邪魔をしたくなくて、話せなかったんだけど。カリーナの主張の真偽、僕らでたしかめられると思うんだ。ルイス義姉さんを探す兄さんの様子を見て、ちょっと思いついたことがある」
クラークの考えを聞いたミリィは、なるほどね、とこぼす。
「……カリーナも獣人だから、確実ではないけど。それで嘘が暴ける可能性はあるわね」
クラークとミリィは、兄と、その番であるルイスのために動き出す。
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